2020/12/02 (WED)

社会学部キャリア支援プログラム イベントレポート—瞬間を切り取る
—報道写真/ポートレイト(人物写真)の現場から—

OBJECTIVE.

2名の卒業生フォトグラファーによるキャリア講演

2020年10月21日、卒業生2名によるキャリア講演がオンラインで開催されました。

現役フォトグラファーの「リアル」

2名の卒業生フォトグラファーによるキャリア講演

2020年10月21日、卒業生2名によるキャリア講演がオンラインで開催されました。

“瞬間を切り取る”と題された講演の講師2名は、現役のフォトグラファーです。
斎藤美雪さんは、共同通信社に所属し、主に報道現場の撮影を担当。福岡在住のため、普段は九州と沖縄の現場を回っています。
加藤岳さんは、雑誌やカタログなどに掲載されるポートレイト(人物写真)撮影を中心に、都内でフリーランスとして活躍しています。

以前より2名と親交があり、講演の進行役を務める社会学部キャリア支援委員会委員長(メディア社会学科)の橋本教授から簡単な紹介があったのち、さっそく講演が始まりました。

「カメラは、人間の目には絶対に勝てない」 斎藤さん

斎藤さんは普段、私たちが目にする新聞やネットニュースなどに掲載される写真を撮影しています。実際に自身が撮った写真をスライドで見せながら、撮影当時の背景などが語られました。
その1つが“絵づくり”と“やらせ”の違いです。

表示されたのは、熊本地震で犠牲になった方々を追悼するイベントを写した1枚。夜の熊本城を背景に、地面にはいくつもゆらめくロウソクの火。そんななか、小さな女の子が1本のロウソクに火を灯している瞬間です。
この写真で斎藤さんは、撮影テクニックの1つである“絵づくり”を語りました。

「報道はありのままを撮ることが基本ですが、ここでは火をつけていた女の子に『ちょっとそのままにしててくれる?』と話しました。よりわかりやすい写真が撮れるように、ポーズや立ち位置を指示することもあるんです」

一方、イベントに一切関係ない第三者を無理やり連れてきて撮影したらそれは“やらせ”であり、実際にないものを合成したら捏造であり、これらは断じて許されないと、報道写真のあり方を示しました。


また、日食を写した天体写真の話も、みなさん非常に興味深く聞いていました。

「正直、カメラは人間の目には絶対に勝てません。目で見る以上に強い体験はないからです。でも、天体に関しては違います。たとえば、カメラの設定で、肉眼では見えない夜空の無数の星を捉えることができるんです」

本質的かつカメラの可能性やロマンを感じるお話だったと思います。


実は、斎藤さんの経歴は少し変わっています。
学生時代、ゼミでは報道や表現の自由を研究。アルバイトでは国際的なニュース週刊誌に携わるなど、現在の職につながるような知見も蓄積していました。一方で、放送研究会に所属し、映画など映像編集にも熱を入れていました。

「報道以外の進路もいろいろと検討したのですが、昔から“知らない場所に行って知らないものが見られる仕事がしたい”と思っていたので、最終的にはその思いに従って報道業界を志望しました」

また、共同通信社へは、募集人員の関係で記者(ライター)としての入社でした。それでも、報道フォトグラファーへの思いは就職後も途切れません。2017年、ついに希望が通り、転籍となりました。
段階を経てでも夢を叶える。そんな彼女の夢にかける情熱が実を結んだと言える経歴です。

「撮影以外の仕事もたくさんある」 加藤さん

 雑誌やウェブなど幅広い分野で撮影を行う加藤さん。フォトグラファーとしてはもちろん、フリーランスとしての“リアル”な仕事が多く語られました。
 斎藤さんとは違い、同時並行的にいくつものプロジェクトを進行させていく点が大きな特徴です。
まず加藤さんが強調したのは、撮影以外の仕事の多さでした。営業・コンセプト設計・打ち合わせ・ロケハン・撮影・セレクト作業・レタッチ・納品&管理・経理業務などを、一連の流れとして挙げます。

「仕事は撮影だけでなく、常にこのどれかをやっています」


話は徐々に、仕事の詳細へ。
プロジェクトが動き出すと、編集者やディレクターとどんな画を創るか打ち合わせをしたのち、実際の撮影場所の事前確認であるロケハンが行われます。

そして、撮影です。撮影では常に心がけていることがあるそうです。

「アシスタント(弟子)をしていた時代に『早く、正確に、カッコよく』と師匠から口酸っぱく言われていまして、今でも強く意識しています」

撮影後は、実際に掲載する写真を選ぶ作業です。

「同じシーンの、場合によっては100枚くらいのなかから、まずは自分でこれがいいと思った写真をいくつか選び、そこから編集者さんに選んでもらう流れです」

驚きの数がさらっと挙がるなか、加藤さんはこう続けます。

「写真は“選ぶ行為”です。撮影は、無限の世界からどの一瞬を選ぶかの作業であり、撮影した多くのなかから“これぞ”と思える1枚を選ぶ作業でもあります。この精度を高めることが上達につながります」


ほかにも、フォトショップなどで肌の荒れを修正するレタッチ作業、データの納品と保管、最後に経理作業をして、ようやく1つのプロジェクトが終了します。

まさに“言葉を紡ぐ”ように、慎重に、かつ強い信念を感じる口調で語った加藤さん。撮影だけでなく、すべての仕事に真摯に向き合っている姿が垣間見えたお話でした。

次々と飛び出す質疑応答

質疑応答では、視聴していた多くの学生から質問が寄せられました。一部を抜粋して紹介します。
●動画が手軽に見られる時代になってきていますが、写真ならではの魅力について教えてください。

斎藤さんは、前回の東京五輪の聖火ランナーを務めた被爆者の写真を例に挙げました。

「被爆体験を話されていたので笑顔まではいかないけれど、2020年の東京五輪に向けたお話もあったので希望も感じる……そんな複雑な表情を狙った1枚です。これが動画だと、この表情はほんの一瞬だけになってしまい印象に残りづらくなってしまいます」

加藤さんも共感し「現場で最も心が動いた瞬間を見せてあげることができること」だと話します。


●使っているカメラの金額や、こだわりを教えてください。

斎藤さんが普段持ち運ぶカメラ2つ、レンズ3本、ストロボ2つを合計すると、新車が買えるくらいの金額になるそうです。

基本的に自腹で揃える加藤さんは、斎藤さんが社費で購入できる点を羨ましがりつつも、人物を撮影するカメラマンの間では定説となりつつあるというこだわりを挙げます。

「画素数が多すぎないカメラを使っています。肌荒れなどが目立たないこと、また、ハードディスクを圧迫しないことも理由です」

●インタビューして記事にする仕事に興味があり、就職するかフリーになるかで迷っています。

まず加藤さんが自身の体験を重ねました。

「フリーランスをめざすなら、強い意志やその人ならではの強みが必要です。また、今年はコロナウイルスの影響で大幅に収入が減った月もあったので、そういった覚悟もいると思います」と返答しました。

対して斎藤さんは、奇しくもフリーランスの方から聞いた言葉が脳裏をよぎったと話します。

「『会社ならお金をもらいながら教えてもらえる』と聞いたことがあって、就職することのメリットをあらためて感じました。フリーランスには、相応の気概が必要だと思います」


合計で十以上の質疑応答が展開され、活発に意見が飛び交う、有意義な時間となりました。

講演を視聴して心に残ったこと

最後に、視聴した学生2名に講演の感想を聞くことができました。

スポーツ報道関係に興味があると話す学生は、リアルな仕事の話に新鮮さやおもしろさを感じる一方、同時に大変さも感じたようです。

「個人的にスポーツ写真を撮影してブログにアップしていて、いつも選ぶのが大変だと思っていたんですが、加藤さんが100枚から選んでいる話をしていて驚きました。撮影以外の仕事も多く、大変さも感じました」


もう1名は、編集や出版に興味がある学生。現在、百科事典に掲載する写真を選ぶアルバイトをしています。

「斎藤さんの話にあった “カメラは人間の目に勝てないけど、天体の写真は違う”ことが心に残りました」

講演を聞く前までは、アルバイトでの写真選定で過度に責任を感じてしまっていたと話します。ただ、2名の話を聞き、責任は感じつつもやりがいを感じられるよう、自分のセンスを信じて取り組むことが大切だと気づけたそうです。


なかなか聞く機会の少ない、フォトグラファーのリアル。具体的かつ明快な話が多く、視聴していた学生にとっても興味が持ちやすかったためか、多くの質問につながっていました。自身と重ねたような感想も聞かれ、学生に与えた影響力の大きさも感じることができます。
動画全盛ともとれる現代において、あらためて写真が持つ魅力、可能性を感じられた講演でした。