2020/12/18 (FRI)

社会学部、社会学部・社会学研究科同窓会共催キャリア支援プログラム イベントレポート
「地方で活きる!新しい生活様式による新たな付加価値7つの秘策」
~首都圏一極集中を避けた、新しいライフスタイルの功罪~

OBJECTIVE.

2020年11月30日、本学社会学部OBで現在熊本県天草市起業創業・中小企業支援センター副センター長を務める小田勝久さんによる講演が、オンラインで開催されました。

地方生活の可能性と幸せを考える

縁もゆかりもない熊本県天草市で1人、コロナ禍での新生活

冒頭、水上学部長から小田さんの簡単な紹介があり、さっそく小田さんの講演が始まりました。まずは自己紹介として、簡単な経歴が語られます。

さまざまな企業のPRやマーケティングを行ってきた一方、イグノーベル賞を受賞したバウリンガルの開発に携わるなど、豊富な経歴を持つ小田さん。
多様な知見を積み重ねてきているようです。
そんな小田さんが現在の仕事をするために「縁もゆかりもない」という熊本県に移り住んだのは、2020年4月。ご存知「緊急事態宣言」の発出とほぼ同時期です。

「正直最初は、家でぼーっとしている時間もけっこうありました」

慣れない土地での生活に加え、新型コロナウイルスの流行。まさかのスタートとなりましたが、小田さんは決して下を向いていませんでした。

「初めは『地方創生は可能性があるかもしれない』くらいの期待値でしたが、コロナ禍における社会の劇的な変化により、地方には、都会に勝るとも劣らない魅力や価値が多くあるとの認識に変わっていったのです」

ビジネス成立のサポートがアマビズの存在意義

ここで、小田さんが所属する天草市起業創業・中小企業支援センター=Ama-biZ(アマビズ)のことが紹介されました。

地元での起業や、中小企業の活動サポートを行うのが、主なアマビズの役割です。
たとえば、ご当地クラフトビールをつくったり、漁師さんが魚のペーストを自ら製造・販売したり、他にも多種多様なサポート事例が存在します。
小田さんは印象として「『製品』はつくることができても『商品』になっていかない事例が多い」と話します。

「地方だと、その多くが『多品種少量』なのです。量がないとチェーン店で扱ってもらうのは難しく、量が確保できたとしても、今度は品質が安定しないという課題が出てきてしまいます」

だからといって諦めるのではなく、品質のバラつきを逆に魅力として伝えるなど、資源を生かしながら見え方や考えの切り口を工夫することが大切。きちんとビジネスとして成立させてあげることがアマビズの存在意義でもあると、小田さんは語ります。

「ビジネスには、①いいものをつくる。②販路を確保する。③伝える。この3つが重要で、これを成立させるために、アイデアを出したり、人と人をつなげたりしているのが今の私の仕事です」

地方生活の可能性を最大化したオンラインの普及

私たちの生活を一変させたとも言える、オンライン活動の普及。小田さん曰く、これこそが地方の可能性を飛躍的に高めた最大要因だそうです。

「仕事だって学校だって、行く必要がなくなる。余った時間で副業ができれば、収入も増える。それが地方なら、生活費も低ければ可処分時間も多い。土地も広いので、たとえば3世代で住めば子育ての負担も減らせる。自然が豊かなので健康にもよい影響があると思います」
オンラインのおかげで「物理的な距離が関係なくなった」と言えます。仕事ならテレワーク、学校ならオンラインスクールやレッスンといった具合に「場所」の制限を受けにくい時代へと移り変わってきたのです。

「実際に地方に社屋を構える企業も増えている印象ですし、N高をはじめとしたオンライン教育の充実ぶりも目を見張るものがあります。つまり、地方にいながら都会と同じ水準で働けるし、学べるということを示しています」

 地方では「空き家」問題に直面する自治体も多くありますが、小田さんはこれすらも有効活用すべきであると語気を強めます。

「たとえば天草市では、古民家を月2万円で貸し出しています。安く借りて普通に住むもよし、改修してショップを新設するもよし。地方移住や改修には補助金も多くありますので、さらに出費を抑えられます。これはある意味魅力的と捉えられると思います」

その他にも、たとえば地方の廃校した校舎があれば、養殖、農業、建築など、現地ならではのプロフェッショナルから学べる場として利用することもできる。たとえば土地が広く、人が少ないことを逆手にとって、自動運転技術などの実証実験の場としての活用も考えられる……。

 ここでは伝えきれないほど、地方の魅力や可能性をいくつも語る小田さん。都会近郊に住んでいる人も思わず「地方という選択も有りかも」と思ってしまうようなお話が続きます。

「地方で幸せに暮らす」とは

最後に小田さんが掲げたテーマは「地方生活は幸せか、その幸せはどうやって見つけられるか」でした。

「たとえば、水が半分入っているコップがあったとします。これを見て『もう半分しかない、どうしよう』と思う人もいるし『半分も入ってる、ラッキー』と思う人もいます。つまり私は、幸せとは気持ち次第なのではないかと考えています」

実は小田さん、学生時代は「幸せ」をテーマに研究していたそうで、こんなご時世だからこそこのテーマを最後に届けたかったと話します。

では、地方生活の幸せとは。
小田さんは、53歳で現役のサッカー選手を続ける三浦知良さん、78歳でニューアルバムを発表したポールマッカートニーさんらを引き合いに出しながら、こんなことを語りました。

「学生時代、野田先生から聞いた『次を狙っているときが1番幸せだ』という言葉が強く印象に残っています。大変だけど、何かをめざして次のステージに向かっている時間に幸せを感じるとのことです。もちろん、地方で普通に暮らすだけでも充分幸せだと思います。ただ、野田先生のように挑戦意欲の高い人にとっても、幸せに暮らしていける要素が、地方には盛り沢山だということを伝えて講演を締めたいと思います。何かおもしろいことに挑戦したい人、今は地方にこそチャンスが多く潜んでいますよ」

この後、いくつかの質疑応答が行われ、会は活況なうちに終了の時刻を迎えました。

 コロナ禍、コロナ後における地方の可能性、そして幸せについてまで、多くのことを語った小田さん。そのお話では終始「一見悲観的な事実も、見方を変えれば魅力的になる」を教えてもらっているような気分になりました。

ついつい悲観的に捉えてしまいがちな2020年、そしてこの先。そんな不安を払拭してくれるかような話が展開されたことから、これを機に前を向くことができた学生も多かったのではないでしょうか。今このときだからこそ響く内容であり、学生の進路の参考としても非常に示唆に富む講演だったように見受けられました。

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