同窓会・キャリア支援委員会共催のキャリアイベントレポート

2023/05/08

卒業生

OVERVIEW

2022年11月9日、同窓会・キャリア支援委員会共催のキャリアイベントとして、日本板硝子株式会社の人事部(講演当時)・内山麻理子さんをゲストにお招きし、オンラインによる講演会が開催されました。

人生に成功も失敗もないとしたら 自分の〝持ち味″こそが羅針盤

【内山麻理子さんプロフィール】
2004年 立教大学社会学部社会学科卒業
2015年 日本板硝子株式会社(キャリア採用)入社、秘書室勤務
2019年 同社人事部へ異動
社会学部を卒業して以来、20年以上のキャリアを積み重ねてきた内山さん。1社目で客室乗務員、2~3社目で秘書、次に人事・教育と経験してきた職種はさまざまです。そんな内山さんのオンライントークが、3年生を中心とした聴衆を集めて開かれました。冒頭、キャリア支援委員会委員長の小泉元宏准教授より挨拶があったあと、さっそく画面に内山さんが登場。親しみやすい語り口で、まずは最初の就職のお話から始まりました。

2週間で人生が変わり航空会社へと就職

私が立教生だったころは就職氷河期といわれた時代の終盤で、自分も周囲も就職活動には苦労しました。何とか希望に沿った内定を得たあと、卒業旅行に行こうとヨーロッパへの空路を調べていたところ、大韓航空のソウル経由が安いとの情報を得て、大韓航空のWEBサイトを開いたのが運命の最初の転換点でした。サイトのトップに「日本人乗務員募集」とあり、クリックすると応募締切は数日後でしたが、さんざん苦労したエントリーシートとは違いごくあっさりとした応募フォームを見て、この程度ならと深く考えずにエントリーしました。

年の瀬の卒論提出期限とほぼ同じタイミングで、大韓航空から入社手続き通知とソウル行き片道航空券が届きました。大学最後の冬休み、2週間後には韓国へ渡るスケジュールです。不安がる両親に反対され迷いましたが、とりあえず行ってみて考えようという直感に導かれ、内定先に出向いて辞退を伝え、お正月明け早々にソウルへバタバタと旅立ったのが私のキャリアの始まりです。ゼミの間々田先生の多大なるご尽力のおかげで、在学しながら入社、韓国で2カ月の訓練を受け、OJTフライトに無事合格して乗務も始まっていた3月、無事大学卒業となりました。

客室乗務員から秘書の仕事へ転職

大韓航空の同期たちは、もと日系航空会社の客室乗務員など社会経験のある人ばかりで、韓国語もまったく話せない新卒採用の私が、間違えて潜り込んでしまった最初の就職でした。ちょうど第1次韓流ブームで、日本と韓国を結ぶ路線は大増便となり、朝は始発で自宅を出て月100時間超の乗務と多忙でしたが、無事契約期間の6年を勤め終えました。

次の仕事は、医療系社団法人の大学教授兼、臨床医の秘書でした。非常にタフな現場で、週の前半は病院、後半は東南アジアの病院や欧米の学会に随行する、いわゆる同行秘書でした。チケットの手配、移動、通訳がわりなど多岐にわたる業務を行い、とても濃厚な1年弱を過ごしました。その後、人材派遣業界で秘書を4年間勤めたあと、現在の日本板硝子(株)にご縁があり秘書室に配属されました。3年8か月の社長秘書担当のあと人事部へ異動になり、人材育成を担当して4年目になります。

予想していなかった「畑違い」の人事部へ異動

人事は社員の皆さんをさまざまな形でサポートする仕事で、大きく労政・採用・教育の3つの柱に分類され説明されることが一般的です。私はその中で教育を担当し、さまざまな社内研修を企画・運営したり、ひとり一人の成長課題に合った機会を提案・提供する役割を担っています。新入社員研修から管理職の方々へのハラスメント研修など、とても幅の広い業務に携わらせてもらっています。今日集まってくださっている皆さんのような、入社して日の浅い若い方々と接するときなどは、とくにとても楽しんでいます。

一方で、秘書という仕事は経営責任者の山のようなタスクやスケジュールをテトリスのようにひたすら組み、そうしながら、それぞれの効率はいいのか、利害関係者すべての人にとってタイミングは適切か、そもそもの会議設定が妥当なのか、など正解のわからないタスクに追われます。全従業員の先を走る社長のペースを自分が落としてはいけないというプレッシャーの中で調整が困難なこともたくさんあり、多くの人に迷惑をかける自分のパフォーマンスに落ち込むことも日々ありました。少ない情報で人に動いてもらい、かつスピーディーに進めなければならないことばかりで、コミュニケーションには試行錯誤を重ねました。

悩みや苦しみを抱えながら前に進む

それでも何とか組織を理解し始め、自分なりのやり方をやってみようと思っていた矢先の人事部への異動だったので、当時は憂鬱な気持ちでした。人事の知識も興味もなく、向いているとも思えなかったからです。30代半ばにして能力もモチベーションもマイナスからのスタートでした。当時いちばんつらく感じたのは、自分の価値観と周囲から求められるものとのギャップです。一方で、その自己肯定感・自己効力感の低さを無理に克服する必要はないことも、それまでの経験から感じ始めていました。今でもそれは克服できていませんが、そのままでもなんとかやっていけるものだと、今では感じています。

大韓航空勤務時代の話に戻りますが、多くの同僚が過酷な労働環境に心身のバランスを崩し「何のために大学を出たのか分からない」と、乗務へのやりがいを失って辞めていきました。肉体労働や、時に過剰なサービスの要求を受けることは客室乗務員の宿命です。しかし、オフィスワークなら違うかといえば、決してそうではありませんし、クレーム対応や単純作業、あるいは力仕事ばかりの乗務の仕事の価値が低いわけでもありません。せっかく大学を出たのにこんなにつまらない仕事をやらされている、と言い切るのは早計で、どんな仕事でも”大学で学問を修めた人なり”のパフォーマンスがあるはずだと思っていました。

おかげで、自分の経歴や積み上げてきたものにこだわらず、目の前にある仕事をいちばんよいと思うやり方で工夫してやってみる気持ちの切り替え方を、知らず知らずのうちに身につけられたように思います。「いつまでこんなことが続くのだろう・・・」と思っても、続かないから大丈夫!楽しいこともつらいことも、どちらも長くは続きません。そのように考えられるようになることは、学問を修めることの値打ちのひとつだと振り返ってみて思います。

困難があっても川を下り続け大海原へ

皆さんは、ここまで話を聞いて、私がたくさん挑戦をくり返すポジティブで前向きな人間だと思われるかもしれませんが、そうではありません。今日は、9割の失敗と1割の成功経験をもとにお話しています。9割は思い通りにはいかないことばかりでしたし、決して私は本来、ポジティブなほうではありません。「インポスター症候群」という言葉をご存知でしょうか?これは、自分の力で何かを達成して周囲から高く評価されても、自分には能力がなく、評価されるに値しない、自分は周囲をだましていると罪悪感に苦しむ思考パターンのことです。私はこの「私なんて」という気持ちがいつも心のどこかにあり、今でも克服できずにいます。

キャリア形成の考え方のひとつに「山登り型と川下り型」というものがあります。一歩一歩目標に向かって頂上を目指して登っていくのが山登り型。一方で、ゴールを海に見立て、それに向かって川の流れに身を任せるかのような歩み方が川下り型です。キャリアをスタートした当初はそのような知識はありませんでしたが、自分は川下り型のタイプで、日々の困難の波を何とか受け止め、あるいは受け流しながら、海に出ることを目指しているのかもしれない、と自己分析しています。

人生には避けることができない良いこと、悪いことが繰り返し起きますが、その起こった出来事の良し悪しは、実はその瞬間には分からないもののようです。「塞翁が馬」というように、幸運と不運はどちらともいえないのが人生なのだろうと思います。そうであれば、どんなにつらい出来事も、それを何かのチャンス、良い出来事の兆しだと受け止めて前に進みたいと心がけています。

皆さんも、何かの壁にぶつかったときは「塞翁が馬」、「自分は今、海に向かって川を下っているのだ」という話を、ぜひ忘れずに思い出してください。川を下りながら自分の直感を信じることが、これからの社会で居場所を見つけるための重要な考え方だということを、今日はお伝えしたいと思います。一律であることより多様性が重視されつつあるこれからの社会で「あなたという人は、どんな人ですか?」という問いに答えられるよう、ぜひご自身の「直感」を信じて人生の選択をしていってほしいと願っています。

内山さんと聴衆の間に共感が生まれた、質疑応答の時間

質疑応答の時間は、内山さんの包容力溢れる回答が聞き手をひきつけていました。「新卒入社の形についてどうお考えですか?」の質問には「新卒入社で、定年までその企業に在籍する人はおそらくもういなくなるでしょう。転職に寛容な社会になりましたから、1社目が違うと思えばすぐにシフトチェンジして次に進めばよいと思いますよ。1社目で自分にぴったりの企業に入社できる人は多くはないと思います」。

「就活時期が早期化しており、1~2年生のうちから始めている人もいます。学生時代の時間はどう使ったらよいのか悩みます」の質問には「もしも、いろいろなタスクのどれもが大切で優先順位がつけられないなら、健康に気をつけながら全部やりきってください。若い時期に何かをやり切ると、そのあとの長い人生のスタミナになります。就活も大変ですが、インターンシップやサークルや、やりたいことを直感で選んでやり切ってください。限界の先が成長です」。

「どうしたら、自己肯定感を高めることができますか?」の質問には「私も自己肯定感が低いです。自分と人を比べて落ち込んでしまうときは、視点に毒を持ってみてはどうでしょう。素直に相手を称賛して気圧されてしまうのではなく、どこか相手の”スキ”や”アラ”を見つけて心の中でツッコミを入れることです。あまり褒められたことではないですが、もうひとりの自分が状況を俯瞰して、あえて少し意地悪な批評を他者に与えてみると、徐々に明るく笑い飛ばす気持ちや、自分を肯定する気持ちが見えてくるのではないでしょうか。社会に出ると、周囲がみんな優秀に見えます。ですが、自己肯定感がたとえ低くても前に進むことはできますし、そのような認識を自分に持っている方は思慮深く細やかなので、組織では大変重宝され、活躍できる場所はたくさんあります」。

「活動的な人を見てうらやましく思うことがある」という意見には「活動とは、決してあちこちに出かけて行くことだけではありません。家でじっとしていても情報を頭の中でどうとらえて、どう消化するのかが活動量だと思います。物事を深く考え、分析・解釈する思考が大切で、じっとして考えている時間はムダではなく、むしろ価値のある時間です。重い腰が上がったときは、機が熟したとき。焦ることはなく、それが自分にとってのベストなタイミングだったんだと思います」。

「私は留学を選択したのですが、就活で大変そうな人を見て自分は何がしたいのかわからなくなりました」という人には「あなたは人と違う動きをしています。それって最高です!ぜひ、それに快感を持つ体質になってほしいですね。『人より不利、人と違う』ことは少し時間が経つと、自分を語るうえで貴重な話題のひとつになります。社会に出ていろいろな経験を人に話す場面は増えますが、あまり成功体験を話すとしらけますが、失敗談は人間味があり、すごく盛り上がります。今は多様性が求められる時代です。よい大学を出た優秀な人はたくさんいます。自分にしかない個性、自分は何をどう感じるのかがこれからの社会では重視されます。無難な線から飛び出して、自分のキャラクターを創っていってください」。

最後に「私も皆さんと同じような悩みをいつも抱え、せっかく大学に入学したのにサークルに入ることにも失敗したような学生でした。ですが、自信の無さを克服しないままでも、振り返れば楽しく、前向きにキャリアを積み重ねることはできています。皆さんも、ぜひいろいろな悩みを人に打ち明ける少しの勇気をぜひ持って、学生生活を精一杯楽しんで欲しいと思います」と締めくくってくださいました。

講演を終えての聴講者の感想

講演後、聴講した学生に感想をたずねると「よいお話が聞けて、頭の整理ができました。自分も限界までやってみようと勇気をもらいました」、「ご自身の経験に裏打ちされているからこそ重みのあるお話でした。自分の悩みは自分だけではないことがわかり、ラクになりました」、「すぐに何の役に立つか、と考えてしまいがちなのですが、いつか役に立つと思ってがんばります」などのコメントが数多く寄せられました。

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