2026/10/08 (THU)

【実施報告】ソーシャルデータサイエンス実習1 成果発表会を実施

OBJECTIVE.

2026年8月26日、社会学部SDS(ソーシャルデータサイエンス)コースの科目「ソーシャルデータサイエンス実習1」(担当教員:石井浩雅講師)において、春学期の分析成果を報告する発表会を実施しました。受講生21名が6グループに分かれ、企業から提供を受けた実際の購買データの分析結果と、そこから導いた売り場・販促の提案を発表しました。

発表する社会学部メディア社会学科2年次 青木 弥生さん、社会学部現代文化学科2年次 荒木 岳道さん、社会学部社会学科2年次 久保田 彗星さん

当日は、データを提供いただいた企業と、その分析を手がける企業から3名をゲストにお迎えし、各グループの発表に対して直接講評をいただきました。実務の第一線に立つ方々の目を通して自分たちの分析を見直す機会となり、受講生にとっては、大学での学びが社会でどのように使われるのかを実感する場となりました。

授業の背景:社会学部で「人を見るデータ」を扱う

報告会には、コースの学生と教員が集まった

SDSコースは、社会学部が2025年度に新設したコースです。社会学・社会調査法の基礎と発展をふまえながら、データサイエンスの理論と方法を実践的に修得することを目的としています。

本科目で扱ったのは、ID-POSと呼ばれるデータです。従来のPOSデータが「何が、いくつ売れたか」を記録するのに対し、ID-POSは購入者と結びついているため、「同じ人が、次に何を買ったか」「いつから買わなくなったか」といった、人の行動の移り変わりを追うことができます。商品ではなく人を単位として社会を捉える視点は、社会学部の学びと重なるものです。

半年間の取り組み:受講生の構成

授業は全14回。受講生21名のうち15名は、2025年度に発足したSDSコースの1期生で、残る6名はコース生以外の社会学部生の履修者です。所属は社会学科・メディア社会学科・現代文化学科の3学科にわたり、学年は2年生が18名、3年生が3名でした。

分析はすべて、プログラミング言語Pythonを用いて行われました。扱ったのは、2024年1月から2025年12月までの2年分の購買記録です。およそ1,000万行にのぼり、Excelで開ける上限(約104万行)をはるかに超えるため、そもそも通常の方法では開くことすらできません。授業の序盤には食品メーカーのデータ分析部門の責任者や、人流データを扱う企業の担当者を講師に迎え、実務でデータがどのように使われているのかを学びました。中間発表を経て、この日の最終発表に至っています。

発表:6グループがそれぞれのテーマで

各グループは、与えられた課題に取り組むのではなく、データを見ながら自分たちで問いを立てました。当日発表されたテーマは次のとおりです。

  • 大人用紙おむつと持続可能な経営——高齢化が進む地域で、在宅介護を支える買い物を考える
  • プロテイン形態別にみる併買クラスター 筋肉か、美容か、健康か——粉末・バー・飲料で、一緒に買われる商品の違いを比べる
  • 店舗別立地が及ぼす影響——店舗周辺の商圏を国勢調査と重ね合わせ、地域特性を明らかにする
  • 年代別女性の購買行動分析——人口が減少する地域で、顧客に長く利用してもらうために
  • 化粧品カテゴリーにおける追加購買促進の可能性——購入額の上位層と中間層の行動の違いを探る
  • 日焼け止め購買データ分析——商品の性能を自ら採点し、売れ筋の変化を測る

既存の指標が無いところに、受講生自身が「高性能品」を定義した採点基準。何を測るかを決めるところから始めている(発表資料より)

分析結果を示しながら発表する社会学部メディア社会学科2年次 井口 桜来さん

いずれも、企業が実際に直面している課題です。6グループはすべて、分析結果を示すだけでなく、売り場の構成や販促施策の具体的な提案にまで踏み込みました。

企業からの講評:データを人の単位で見られていたか

発表後、3名のゲストから講評をいただきました。分析を手がける企業のお二人が担当を分けて各グループに、データを提供いただいた企業の経営者からは全グループに対して、それぞれコメントがありました。

まず評価されたのは、データの見方そのものでした。ID-POSは人を見るための道具であるにもかかわらず、分析を進めるうちに、いつのまにか商品やカテゴリーの話に戻ってしまうことが少なくありません。その中で、カテゴリーの枠にとらわれず、購入者の暮らしから仮説を立てられていたグループがあった点が挙げられました。

個々の提案についても、具体的な評価がありました。商品の形態ではなく購入の目的で売り場を組むという提案には、納得感が高いとの評価がありました。商品の性能に応じて売り場で伝え分けるという提案は、実際に小売やメーカーが行っている販促であり、そこに気づいたことが優れているとされました。人口が減っていくことを前提に、新規の獲得よりも、来てくださる方に長く利用してもらうことを重視した視点は、とても重要な視点だと述べられました。

当初の仮説と結論が食い違ったグループについては、その食い違いにこそ価値があると指摘されました。思い込みのまま売り場を作り、販促をしていれば、来店される方のニーズと大きくずれた売り場になっていたはずだ、というものです。

課題として複数のグループに共通して示されたのは、「比較する」という姿勢です。あるグループがよく買っている商品を並べただけでは、それがそのグループの特徴なのか、単にその店でよく売れている商品なのかを見分けることができません。全体と比べて初めて、特徴が浮かび上がります。

粉末プロテインを買った人の年代構成(赤)を、全来店者の年代構成(青)と重ねたもの。二つの差が、その商品を買う人の特徴になる(発表資料より)

また、「もっとデータがあれば分かるのに」という趣旨の発言が複数のグループから出たことに対しては、企業側での実践が紹介されました。手元のデータに項目がなくても、既存の情報を組み合わせて新しい区分を作り出すことはできる。ないから諦めるのではなく、探す、作る、誰が持っているかを考える——社会に出てから必要になる姿勢として語られました。

2つのグループの分析については、社内でも試したことのない切り口であり、持ち帰って取り組んでみたいとの評価をいただきました。そのうち一方については、商品の評価と売れ行きの変化を結びつけた着眼が、これまで考えたことのないものだったと述べられています。

受講生が到達したところ

発表全体を通して、いくつかの共通した到達点が見られました。

ひとつは、売上を「購入者数×購入頻度×1回あたりの購入個数×単価」に分解して捉える型が、複数のグループで共有されていたことです。売上が伸びた、あるいは落ちたという事実を、どの要素が動いた結果なのかに分けて考える習慣が身についていました。

売上を4つの要素の掛け算に分け、前年からの変化を要素ごとに示したもの。伸びが「何によって」起きたのかまで特定できる(発表資料より)

もうひとつは、手法との向き合い方です。商品同士が一緒に買われる度合いを測る指標を用いたグループが複数ありました。そのうち1グループは、その指標では購入額の上位層と中位層の違いが見えないと判断し、指標を捨てるのではなく、購入率の差という別の軸を自分たちで設計して組み合わせています。分析の結果を見て、測り方そのものを作り直したことになります。

上位層と中位層で購入率を比べ、その差が大きい品目を並べたもの。既存の指標では見えなかった違いを捉えるために設計された(発表資料より)

当初の仮説と反対の結果が出たグループは、それを書き換えることなく、仮説は正しくなかったと発表資料に明記しました。発表の場でも、仮説が当てはまらなかったことを述べたうえで、商品そのものではなく、誰が何と一緒に、どのような目的で買っているのかを見ることの大切さを知った、と締めくくっています。また、提供されたデータの中だけで完結させず、国勢調査や周辺の施設の情報と重ね合わせて店舗ごとの地域特性を描いたグループは、発表資料の最後に「本研究の限界と反省」を置き、データで捉えきれない層があることや、目標とする指標を先に定めていなかったことを、自ら挙げていました。

今後

報告会は3時間におよんだ

本科目は秋学期も続きます。より長い期間のデータを用いて、一人の顧客が年齢を重ねるにつれて購買行動をどのように変えていくのかという、時間をまたぐ分析に取り組む予定です。

SDSコースは、社会科学の観点から先進的なデータサイエンスを修得し、現代社会の可能性と課題に積極的に取り組む教養人の育成を掲げています。データの向こう側にある人の暮らしをどう捉えるか。1期生にとって今回の発表会は、その問いに向き合う最初の機会となりました。

社会学部では今後も、実社会のデータと課題に触れる機会を通じて、学生の学びを深める取り組みを続けてまいります。

SDS(ソーシャルデータサイエンス)コースとは

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