社会とAIを接続する「AIジェネラリスト」になろう
【教員×学生対談】

ソーシャルデータサイエンスコース【2025年度新設】(和田伸一郎教授/現代文化学科 油谷理沙)

2024/10/01

教員

OVERVIEW

2025年度から、社会学部に「ソーシャルデータサイエンスコース」が新設されます。ソーシャルデータサイエンスコースとはいったいどのようなコースで、何を学び、何ができるようになるのでしょうか?社会学部で既にデータサイエンスを扱ったゼミをひらいている和田伸一郎教授と、和田ゼミに所属している現代文化学科4年の油谷理沙さんにお話を伺いました。

写真左:油谷さん、右:和田教授

「ソーシャルデータサイエンス」はAIやデジタルデータを活用する新しい社会学

和田
2025年度から新設されるソーシャルデータサイエンスコース(以下、SDSコース)は、定員20名の少人数制のコースです。大学入試で選抜するのではなく、社会学部入学後の1年次に選抜を行います。ソーシャルデータサイエンスとは、ごく簡単に言えば、AIやデジタルデータを活用する新しい社会学のことです。社会学はさまざまなものを扱える学問領域ですから、時代の変化に応じてデータサイエンスを活用するのは自然な流れです。

SDSコースでは、プログラミングの初歩から基礎を身につけ、卒業時には一人でビッグデータを分析できるようになることを目的の1つとしています。本コースでしっかりデータサイエンスについて学べば、AI開発・データ分析・アプリ開発などに広く使われている「Python」というプログラミング言語の習得も可能です。AI(人工知能)や機械学習、ディープラーニングを扱えるようになり、ITスキルも身につけることができます。もちろん社会学の基礎もしっかりと学び、社会学的思考とデータサイエンス双方の視点で物事を捉えられることを目指します。最終的には、ソーシャルデータを使った分析にチャレンジし、分析結果をもとに卒業論文を書いてもらうことになるでしょう。
油谷
私は現代文化学科で、さらに国際社会コースに所属していました。積極的に英語に取り組む中で、AI翻訳ツール「DeepL」を利用するようになったのですが、従来の翻訳よりも格段に翻訳精度が上がっていることに感動したことから、AIや機械学習に興味を持ちはじめました。そして和田先生の「情報社会論」を履修し、和田ゼミに入ればAIやビッグデータ分析を学ぶことができると知り、プログラミング言語はまったく知らなかったので抵抗はありましたが、思いきって飛び込みました。現在は、ヤングケアラーをテーマにした大規模ソーシャルデータ分析を行って、卒業論文を書いているところです。最初は、プログラミング言語やAIで何ができるのかをわかっていませんでしたが、最近ようやくその仕組みを少しずつ理解できてきました。私のような素人でも、手を動かしているうちにAIやビッグデータ分析に詳しくなれると思っています。

「Xの大規模データ分析」で社会問題や現代文化の実情を可視化する

和田
私のゼミではSNS、特に「X(旧Twitter)」の大規模ソーシャルデータをPythonでAIクラスタリングした上で、特徴的・代表的な投稿を見つけ出し、さまざまな社会問題の実情を可視化する研究を行っています。なお、クラスタリング(クラスター分析)はデータ分析・AI・機械学習などに使われる基本的な手法です。

研究テーマは大きく2種類に分類できます。1つは「社会問題系」で、例えばこれまでに、シングルマザー・毒親・育児休暇・妊活・物流危機などのテーマで研究した学生がいました。もう1つは「現代文化系」で、これまでにはマッチングアプリやコンビニスイーツなどの研究がありました。大半の学生の皆さんは、XやSNSを日常的に使っており、ソーシャルデータの扱いにはある意味で私以上に慣れています。テーマ選びもデータ分析も投稿探しも、日常の延長線上で楽しく取り組む人が多いです。もちろん社会学ですから、データ分析で社会問題の実情を可視化した後は、文献などを参考にしながら社会問題を考察していきます。

油谷
私もヤングケアラーなどのAIクラスタリングを何度も行いました。AIクラスタリングの結果は、例えばこのように3Dで表現されます(画像1)。

画像1:ヤングケアラーの投稿をEmbedding Projectorを用いて解析した3Dクラスタリング結果

SNSデータだからこそわかる「可視化されにくい社会問題の実情」が山ほどある

和田
なぜ私が社会学にXのソーシャルデータを持ち込んだかといえば、現代社会には、Xデータだからこそ見えてくることがたくさんあるからです。油谷さんの研究はその代表例の1つです。

油谷
私は「ヤングケアラー(「家族の介護や世話を過度に行っている子ども・若者)」を研究テーマに、約42万行のXデータを分析しました。Xには、ヤングケアラーに関連する投稿がそれほど多く存在します。

和田
実は、Xにはヤングケアラーや毒親といった「可視化されにくい社会問題」について呟く当事者のコミュニティがいくつも存在しています。しかし、そのコミュニティは探しに行かない限り、決して見えてきません。ほとんどの人は、こうしたコミュニティにまったく気づいていないのです。ところがデータサイエンスの研究手法を使うと、SNSデータからしかわからない「社会問題の実情」が見えてきます。

これらの社会問題の実情は、場合によっては、アンケートによる量的調査、フィールドワークやインタビューによる質的調査だけでは、すくい上げて可視化することが困難です。なぜなら、当事者の人たちにアンケートを取ったり、インタビューをしたりするハードルが極めて高いからです。
油谷
たとえば、私がヤングケアラーのXデータを分析研究してわかったのは、「現役ヤングケアラーの多くが無自覚だ」ということです。彼らが家族の介護や世話に追われているうちは、自分がヤングケアラーだと気づいておらず、介護や世話をするのは当たり前だと思っています。ヤングケアラーを脱した後に、Xにヤングケアラーコミュニティを発見して、「自分もあのとき、ヤングケアラーだったのだ」と気づき、当時の過酷さや辛さを思い出すケースがとても多く見られました。そして、コミュニティ内の仲間たちに、自分のヤングケアラー時代の大変さ、学業や進学、部活動や友人たちとの遊びを諦めた辛さなどを吐露して、気持ちを楽にしているのです。

現役のヤングケアラーに、アンケートやインタビューを通して、こうした回答を得るのはかなり難しいと思います。そもそも本人にその自覚がなく、アンケートやインタビューに手を挙げてくれないからです。昔ヤングケアラーだった人を対象にするとしても、Xには書きこめるけれど、アンケートやインタビューに正直に答えるのは難しいという人は多いはずです。ヤングケアラーを研究するには、Xデータを活用するのが実情を把握する的確な手段の1つと感じます。
和田
従来の社会学は、質的調査と量的調査を2つの強力な手法として活用してきましたが、私が専門とする「SNS調査」は、そうした社会学の蓄積にデータサイエンスを接続する試みだと思っています。

社会はいま「AIがわかる文系人材」を強く求めている

油谷
私は、ヤングケアラーという「不可視の人々」の現状を調査研究することに社会的意義を感じました。取り組む価値のあるテーマは、ほかにもまだまだたくさんあるはずです。

和田
SDSコースの魅力は、卒業後に「AIジェネラリスト」を目指せることです。いま多くの企業が、AIなどのデジタル技術を活用してビジネスを変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)に力を入れています。その課題の1つが、「プログラマーなどのDX専門家とビジネス現場のコミュニケーションがうまくいっていない」ことです。DXの専門家たちがビジネスの現場をデジタル技術で変えようとしている一方で、そのことが現場で働く人たちにうまく伝わらず、結局DXがなかなか進んでいないという話をいろいろなところで聞きます。この問題を解決するため、専門家・現場の両者の気持ちや考えをよく知り、両者の言葉を翻訳してコミュニケーションをスムーズにする「翻訳家=AIジェネラリスト」の必要性が高まっていると思います。

SDSコースでは、そうした貴重な人材を社会に多く送り出すことを目指しています。実際、卒業生のなかにはAIジェネラリストとして企業で活躍している人が何人もいます。なかには、AIと社会情勢の両方の知識を持ち合わせるプログラマーになった卒業生もいます。

油谷さんも語っていたとおり、現時点ではプログラミングがわからなくてもかまいません。これからの時代は、ChatGPTなどの生成AIを活用すれば、多くの人たちがコードを書けるようになっていきます。プログラミングなどを恐れる必要はなく、ソーシャルデータサイエンスそのものや、新しい技術、ツールに興味関心がある方はその気持ちを大切に抱いて、ぜひ飛び込んできてください。

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