データの裏には社会がある。
だから、データで社会を変えられる
【ソーシャルデータサイエンスコース学生座談会】
ソーシャルデータサイエンスコース【2025年度新設】(現代文化学科 横山日向子/現代文化学科 山口颯斗/メディア社会学科 亀山来夢)
2024/10/18
在学生
OVERVIEW
2025年度から、社会学部に「ソーシャルデータサイエンスコース」が新設されます。そこで、社会学部で既に開講されており、本コースの演習科目にもなる、「ソーシャルデータサイエンス実習I A」の授業を受けた3人の学生による座談会を開きました。
ドラッグストアの購買データ分析がテーマである本授業の内容を中心に、ソーシャルデータサイエンスにどうやって出会ったのか、授業の面白かった点・苦労した点は何か。今後、ソーシャルデータサイエンスをどのように活かそうと考えているのか。ざっくばらんに話してもらいました。
写真左:現代文化学科 山口颯斗さん 中央:メディア社会学科 亀山来夢さん 右:現代文化学科 横山日向子さん
ChatGPT、インターン、サークルの動画制作。データサイエンスに興味を持ったきっかけは三者三様
——皆さんは、なぜ立教大学社会学部を選んだのですか? また、なぜデータサイエンスに興味を持ち、「ソーシャルデータサイエンス実習I A」の授業を取ったのですか?
山口
僕の通っていた高校には社会問題を取り上げて論文を書く授業があり、テーマに安楽死問題を選びました。その経験もあって、高校3年生で将来の目標を真剣に考えたとき、自分にはこのような社会問題を広く扱う学問が向いているのではないかと思ったので、社会学部を選びました。また、親の影響で幼少期からタブレットPCなどに触れる機会が多かったのと、大学入学後はChatGPTなども使うようになったこともあり、これからのAIやDX(デジタルトランスフォーメーション:デジタルの力で社会や生活を変えること)の時代に備えて、大学生のうちにデータサイエンスを習得したいと思うようになりました。それがこの授業を選択した理由ですね。
亀山
私は高校時代、放送部でドキュメンタリーやドラマなど動画づくりを経験し、メディアに興味を持ったことからメディア社会学科を選びました。データサイエンスには、社会調査法という社会学部の必修授業がきっかけで興味を持ち始めたんです。そこでは量的調査と質的調査の両方について学んだのですが、特に量的調査において、研究内容に数字という根拠をもつことで、新しい発見に辿り着くことができるのが面白いと感じました。
山口
量的調査は結果が目に見えてわかりやすいし、統計学には過去の蓄積があるので、手法が確立されている分、明確な結論や考察に辿り着けるのも良いところだと思いますね。
亀山
現在は大学で学びながら、企業でWeb広告運用の長期インターンシップにも参加しているのですが、Web広告の世界では、分析データが多いほど広告パフォーマンスにその結果を活用できるんです。ビジネスの現場でデータの重要さを実感したので、そこからデータ分析をもっと詳しく学びたいと思い、この授業を選びました。
横山
私は高校時代、難民支援組織にインターンシップで就業した経験があります。大学でも移民・難民を助ける方法を学びたいと思い、有名な研究者がいる立教大学社会学部を選びました。また、学園祭の運営委員会で動画編集とPRを担当しており、先輩にAIを活用した動画編集を教えてもらいました。そこで人間が時間や労力をかけて取り組んでいることがAIによって解決できることに感動し、あるとき「AIで移民・難民を助けることはできないだろうか?」と考え始めました。データ分析はまったくの未経験でしたが、AIについて本格的に学ぶために、ソーシャルデータサイエンスの授業に思いきって飛び込んでみました。
実際のドラッグストアのビッグデータを分析し、買い物客の心理法則を明らかに
——「ソーシャルデータサイエンス実習I A」は、実際のドラッグストアの協力を得て、最新の「ID-POSデータ(匿名化された数百万行の購買履歴データ)」を、Pythonを用いてチームに分かれて分析する授業です。皆さんは、どのような分析テーマに取り組んだのですか?
亀山
私のチームは、期間限定商品購入者の購買行動をテーマにしました。私自身があるスナック菓子の期間限定商品を買っておいしさにハマり、その後もよく買うようになったことがきっかけです。研究の手法は、ある期間限定商品を購入した人・していない人の間で来店回数や購入金額に差があるのか比較したり、限定商品と一緒に購入される商品にはどのような傾向があるのか、プログラミング言語のPythonを使って865万行のID-POSデータを分析しました。プログラミングは初めてだったので最初は苦戦しましたが、ChatGPTをうまく活用してコーディングに取り組みました。分析の結果、期間限定商品を買う人は、来店回数・購入金額がともに大きい優良顧客が多いことがわかりました。大学の授業で実際の企業のビッグデータを扱うことができ、良い経験になりました。
ChatGPTを使って、期間限定商品を購入した顧客の来店回数や、総購入金額などの計算処理を行うためのPythonコードを編集している画面(一部省略)
横山
私のチームは、健康意識の高い人の購買データを分析しました。私もプログラミングは初めてでしたが、エラーが発生した際はChatGPTを使えば修正できるので、初心者の自分でも取り組むことができました。
データ分析の結果、子どもやペットなど、養う対象がいる人は健康食品に興味があることがわかりました。また、健康を意識する高齢者は園芸を趣味にしている人が多いことも判明しました。
そしてこの授業では分析した結果に基づいて、ドラッグストアの方に販売施策を提案するのですが、その提案にもChatGPTを活用したんです。「この分析結果からどういった改善の提案ができそうか」をChatGPTに質問し、そこで出てきたアイデアと自分たちで考えたアイデアを織り交ぜて、提案内容を検討していきました。
データ分析の結果、子どもやペットなど、養う対象がいる人は健康食品に興味があることがわかりました。また、健康を意識する高齢者は園芸を趣味にしている人が多いことも判明しました。
そしてこの授業では分析した結果に基づいて、ドラッグストアの方に販売施策を提案するのですが、その提案にもChatGPTを活用したんです。「この分析結果からどういった改善の提案ができそうか」をChatGPTに質問し、そこで出てきたアイデアと自分たちで考えたアイデアを織り交ぜて、提案内容を検討していきました。
エラーが出て実行できなかったコードを、ChatGPTを使って修正している画面
亀山
ChatGPTだけではなく、自分の視点も取り入れて分析や検討をすることでより成果の質も上がりますよね。
横山
そうですね。最終的には、サブスク制度の導入やフライヤー作成などを提案しました。私はコンビニでアルバイトをしていたことがあり、購買データの存在は知っていたので、生の購買データに触れられて楽しかったです。
山口
僕のチームは、急加速する物価上昇に着目して、生活必需品でドラッグストア売上上位のトイレットペーパーを分析対象に絞り込みました。階層型クラスタリング(デンドログラム)という手法を使って分析した結果わかったことは、価格上昇によって、シングルからダブルに移行した人が多いことです。これはコストパフォーマンスを意識した選択で、省スペースでの販売など実際のビジネス改善にも活かせる分析結果でした。一方で、価格が上昇しても、買う商品を変えない愛好家が一定数いることも判明し、コストパフォーマンスを重視するタイプ、QOLを重視するタイプなど、いろいろなタイプの顧客行動が見えてくるのが面白かったです。
データ分析から販売施策の提案までやってみて、データと施策の間を取りもつには社会学的思考が必要だと思いました。データからわかる情報だけでなく、環境問題や高齢化といった社会問題にも目を向けることで、よりよい施策を考えることができるのだと気づきました。
データ分析から販売施策の提案までやってみて、データと施策の間を取りもつには社会学的思考が必要だと思いました。データからわかる情報だけでなく、環境問題や高齢化といった社会問題にも目を向けることで、よりよい施策を考えることができるのだと気づきました。
クラスター分析の一つの手法であるデンドログラム。似た項目(商品)であるほど、近い枝同士にまとまって表示される
データサイエンスやAIは、今後の社会課題解決や企業の意思決定に欠かせないツール
——今後、この授業で学んだことをどのように活かしていこうと考えていますか?
横山
私はこの授業を通して、文系、理系の垣根を超えて一つの社会問題の解決策を見出すアプローチにとても面白さを感じました。これからは、移民・難民問題などの社会課題を解決するためにAIを活用する「AIプランナー」になることを目指していきます。わかりやすい例だと、翻訳でAIをうまく活用すれば、移民・難民と現地の人たちの間にある言語の壁を超えることができますよね。授業以外でもChatGPTなどを活用してタスクを効率化することも多く、AIで実現できることの可能性をすごく感じているので、もっと理解を深め、応用し、ゆくゆくは移民・難民問題の解決策を自分の力で見出していきたいです。
山口
横山さんの話を聞いて、データサイエンスの役割は社会をよりよく、最適化していくことなのかなと感じました。今後、IT技術の活用はビジネスパーソンの基礎スキルになる可能性がありますし、大学のうちにデータサイエンスを学ぶことは決して損になりません。僕自身は、さまざまなデータを分析・活用して、多角的なビジネスプランを策定できる社会人になれたらと思っています。
亀山
私は大学卒業後、企業のデータ分析やデータ活用の支援に携わりたいと考えています。授業を通してデータ分析のおもしろさを実感しましたし、ID-POSデータの分析でも感じましたが、ビジネスに活用できるデータを持っていながらそれをうまく活かせていない企業が多くあるので、データを基にした意思決定を支援する専門家を目指していきたいですね。そのために私はいま、ソーシャルデータサイエンスコースを担当する教授のゼミでSNSデータの分析にも取り組み、データ分析のスキルを磨いています。
社会や人の動向を突き詰めて考えたい人はソーシャルデータサイエンスに向いている
——2025年度からソーシャルデータサイエンスコースが新設されます。このコースを選択するかもしれない後輩たちにメッセージをお願いします。