社会学部社会学科の西山志保教授にインタビュー

2023/05/22

教員

OVERVIEW

社会学部社会学科の西山志保教授に、担当教科やゼミについて語っていただきました。

大学は学びたいテーマに出会い、人生を歩むための価値観の軸を決める場

行政と民間企業、市民活動団体との連携による地域再生

担当教科の「公共性の社会学」などでは、身近な生活の場である「コミュニティ」において社会的格差や地域衰退などの社会問題が発生するメカニズム、問題解決のための手法を解説します。人口減少、少子高齢化が急速に進む日本において地域再生・活性化のニーズは高まるばかりです。それを行政や自治体だけが行うのではなく、民間企業、市民や市民活動団体など、地域の多様な主体が連携しながら役割分担し、地域を再生させていくことが非常に重要になっています。たとえば「シャッター街」と呼ばれる中心市街地の商店街の再生に代表されるような問題解決にとり組む過程を、官民共創や都市ガバナンス(協治)の視点からとらえることで、社会現象を見る視野を広げていきます。

私の研究の主な舞台は、日本の都市のみならず、イギリス・ロンドンの都心です。市民社会の先進国である欧米では、社会的起業家といわれる市民活動団体の力が強く、ロンドンでは市民事業体が使われていない土地や建物をローンで買ったり、借りるなどして、自主財源を得ながら地域をマネジメントしています。古いエリアをキレイに再生し、驚くような変革を起こしているのです。地域を変えるのは必ずしも行政や自治体である必要はなく、市民レベルで管理していくメカニズムを、ロンドンの事例から写真や資料などを紹介して解き明かし、日本の状況と比較するなどして考察を深めています。

市民活動団体などの手で再生させた横浜「ドヤ街」

日本では、海外のようなサスティナブルでダイナミックな動きがないのかというと、最近ではそうではありません。行政が財政難を抱えているため、民間企業や市民活動団体との連携の事例はかなり増えています。以前から「官民連携」は言われていましたが、行政の深刻度がより増し、さらに公共課題にとり組むノウハウを身につけた民間企業が担う領域が増えているのです。

よく知られた例では、思い切ったリニューアルを行い再生に成功した香川県高松市の高松丸亀町商店街や、横浜の中心街横にある「ドヤ街」、寿町などがあります。ドヤ街とは、戦後の高度経済成長を支えた日雇い労働者が多く住む街のことですが、ここは私の研究対象エリアでもありますので、以前はゼミのフィールドワークで毎月のように学生と通っていました。10年前までは夜道が危険なほどでしたが、さまざまな市民活動団体・民間の手が入り、現在は町もキレイになり、昔の簡易宿泊所が外国人観光客も利用するホステルに生まれ変わるなど「ドヤ街」から脱皮しつつあります。

ゼミでは「稼ぐ自治体〝豊島区モデル"」のフィールドワークを実施

講義では私の調査・研究したものを紹介する形式ですが、ゼミでは「現場との関わりを通して成長する」をモットーに、フィールドワークを展開しています。「都市社会学」「地域社会学」を専門とする私の最近の研究は、立教大学がある豊島区の地域再生です。〝ホームレス公園"と呼ばれていた南池袋公園の再生は、公園が生まれ変わっただけではなくエリアの価値を上げ、また民営化によってカフェに運営をまかせ、アセットマネジメント(不動産などの資産活用)の成功例としても注目された事例です。

もともと豊島区は2014年ごろ〝消滅可能性都市"に指定されるほど、財政が危機的状況でした。しかし、南池袋公園の再生は「区の支出実質ゼロ」でリニューアルに成功。それが稼ぐ自治体〝豊島区モデル"となりました。ゼミではこの身近な〝豊島区モデル"を研究してみようということで、もうひとつの成功事例、豊島区新庁舎を含む「としまエコミューゼタウン(豊島区役所)」などに注目しています。

ここは庁舎と分譲マンションの上下合築として全国初の試みとして注目されました。廃校となった小学校や児童館の区有地を権利転換し、床面積を高層化させる手法や、旧本庁舎とそれに隣接する公会堂・分庁舎の敷地に定期借地権を設定して民間に貸し付け、その地代で支払うという手法を使い、周辺道路も開発して税金を1円も使わずに建て替えを実現したのです。

「土地を活用しながら稼ぐ自治体」に生まれ変わった豊島区ですが、この事業内容などのようなもので、その発想はどこから来たのか。このメカニズムを解き明かすため、ゼミでは4つの調査班からなる〝豊島区プロジェクト"を立ち上げ、資料・文献を読み、仮説を立ててヒアリングを実施しています。ゼミ生たちは、各班のリーダーを中心に関係者にアポをとって現場に出向き、調査を行っています。まず、あれだけ立派な再開発に、まったく税金を使用していないという事実に学生たちは衝撃を受けていました。調査を行った学生たちは、自分の目・耳・足を使って情報を得ると、自分の考えていた予想とはかなり違うことを実感しています。こうして自分で苦労して情報を集めて、事実を確かめる作業は、とても重要なことです。

先ほども述べた地域再生は、自治体と民間企業、市民や市民活動団体などの主体が仲良く、協力し合いながら事業を進めるケースはまれです。むしろ地域づくりに関する合意形成は極めて難しく、それぞれの利害がぶつかり合いながら、かつ何とか折り合いをつけながら、方向性を決定しているわけです。そこをさまざまな立場の方から話を聞いて、どのようなプロセスで合意形成が実現されていったのか、という分析を行うのが研究のおもしろさでもあります。

身近なコミュニティの問題に触れることで人間的に成長できる

途中報告では、残念ながら事前の調査不足で、私が調査プランの再検討や再調査をアドバイスすることもしばしばあります。あきらめずに調査を続けていくと、キーパーソンや新たな発見に出会うことが必ずあります。動くことで情報が集まることを体感すると、自分でさらに情報を集めようと食い下がっていきます。相手がさらっと話を流したところをつかまえて「それってどういうことですか?」と懐に飛び込んでいくことができれば、問題の理解が深まります。また、さらに人を紹介してもらうことも重要です。そうして核心部分へと近づいていくと、学生の目の色が変わり、急に楽しそうになります。

卒論でも地域再生をテーマにする学生は多いです。ある学生は、出身地山形県鶴岡市の商店街再生をテーマに調べるうちに、隣接するコロナの影響で閉館になった市内唯一の映画館「鶴岡まちなかキネマ」再開の経緯を知り、熱心にヒアリングを行い、貴重な話を聞き出してきました。またほかにも、自分が住んでいる西葛西のインド人コミュニティをテーマにした学生もいます。インド人コミュニティは日本人コミィニティとほとんど関わりがないのに、うまく共存できているのはなぜだろうか?と疑問を持ち、それを解き明かしていくうちに単純ではない現実が見えてくるのです。

自分の知らない社会問題、驚くような現実が社会にはたくさんあります。学生時代に知らない現実に衝撃を受け「これはどういうことだろう?」と考える機会を多く提供していきたいと思っています。大学の4年間で、そうした自分の範疇にはない、異質なものと出会う経験があるとないとでは、人間的な成長がまったく違うと思います。大学での学びがそのきっかけになると嬉しいですね。

大学での能動的な学びを通して自分自身の枠を広げる

立教大学は、都心に立地していることもあり、国内外から問題意識の高い学生が集まってきます。社会学部には、社会問題の本質を見抜き、分析する力をつけるカリキュラムがそろっています。教員の専門領域もバラエティーに富んでおり、研究の最先端でがんばっている先生方がたくさんいます。先生方の知識量が多いということは、学生たちに伝えられる情報も多いので、単に勉強面だけではなく社会のリアリティや海外との比較など、先生を通して得られるものがたくさんある恵まれた環境だと言えます。

あらゆることが不確実なリスク社会において、今まで当たり前だと思っていたことが当たり前ではなくなっています。そんな中で、自分の人生の道を選ぶためには、自分が何を大事にするのか、何を求めて働くのか、ぶれない自分の価値観の軸を持つ必要があります。私は、大学とは「自分の価値観の軸を作る場」だと思います。立教大学社会学部には、多様な価値観を提示してくれる先生や授業があります。大学では受け身ではなく、能動的な学びが求められます。立教大学での能動的な学びを通して自分自身の枠を広げ、新しい人とつながることは、人生を豊かにしてくれる大きなきっかけになると思います。

CATEGORY

このカテゴリの他の記事を見る

お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。