社会学部現代文化学科の大倉季久教授にインタビュー
2023/05/18
教員
OVERVIEW
社会学部現代文化学科の大倉季久教授に、担当教科やゼミについて語っていただきました。
現代社会の奥の奥へ。大学は自由な立場で「考える」ことができる貴重な時間
環境危機からの脱出ルートを社会学で探る
私が担当している「環境政策論」は、持続可能性をキーワードに、脱炭素を目指す現代の環境政策の新たな動向と、それがもたらす問題や争点について考えています。とくにこの講義では大きく4つのテーマを柱にしています。それは気候変動対策、エネルギー転換(再生可能エネルギー)、第一次産業(農業や林業)、持続可能な社会のデザインです。私が専門としている森林問題の事例などを紹介しながら、そして世界にも目を向けながら想像力を養うような授業を展開しています。
環境政策は、基本的によりよい社会をつくるために行うことになっているので、誰でもストレートにそれを受け入れ、対策も問題なく進むのではないかと思われがちです。しかし、これが非常に難しいのが現状です。そこには政治と経済社会のさまざまな立場の対立や溝があり、合意や議論の着地点を探り当てることが困難です。
サスティナビリティという考え方の基本は、環境保護と経済活動のバランスを上手く調整していきましょう、ということなのですが、ひと言でサスティナビリティといってもいろいろな考え方があります。どのような立場に立って議論をしたらよいのか、学生たちそれぞれに問いかけながら、今後の環境問題のゆくえ、問題の解決策を考えています。
環境政策は、基本的によりよい社会をつくるために行うことになっているので、誰でもストレートにそれを受け入れ、対策も問題なく進むのではないかと思われがちです。しかし、これが非常に難しいのが現状です。そこには政治と経済社会のさまざまな立場の対立や溝があり、合意や議論の着地点を探り当てることが困難です。
サスティナビリティという考え方の基本は、環境保護と経済活動のバランスを上手く調整していきましょう、ということなのですが、ひと言でサスティナビリティといってもいろいろな考え方があります。どのような立場に立って議論をしたらよいのか、学生たちそれぞれに問いかけながら、今後の環境問題のゆくえ、問題の解決策を考えています。
社会学的視点を養うフィールドワーク
「サスティナビリティ・スタディーズ」をテーマとしたゼミの活動では、広島県尾道市と周囲の島々でのフィールドワークを軸に、ひとつのプロジェクトとして展開しています。春学期に準備を行い、夏に調査を実施、秋学期からは報告書の完成に向けた執筆作業が中心になります。
「サスティナビリティ」が環境政策のキーワードになって長い年月が経ちますが、この考え方が理想とする環境と経済の両立は、先ほどから述べているように容易ではありません。かといって地球環境の危機が年々切迫する中で、そこに生じる課題の解決は急務となっている現実があります。しかしこの問題の解決が難しいのは、さまざまな社会問題と結びついて生じることです。例えば今日の日本では、田畑や森林をはじめ、放棄された自然が広がりつつあります。そしてそうした問題には、地方の過疎化や高齢化などがかかわっています。現代の環境問題は、そうした社会課題の解決と合わせて考えていかなければなりません。
このゼミでは、サスティナブルな社会を築くプロジェクトを担う人々による課題解決を探る「アクション」に関心を寄せて、研究を進めます。アクションとは、社会の中に人や商品、市場の新たな動きを作り出すことです。具体的には、移住や起業、経営の継承などをきっかけに、地域の文化や暮らしを受け継ぎながら、農産物やエネルギー、歴史的な建築物をはじめ、これまでにない地域資源の活用やサプライチェーンを作り出す動きを指します。
実際には地域に入り込んでビジネスを立ち上げ、軌道にのせることはかなりの試行錯誤が必要です。それを現場目線で学生に知ってもらうことを目的に、尾道市とその周辺の島々で果物の生産を手がける農家さんなど、今年は7軒ほどにご協力をいただき、実際に畑でインタビューを行うなど調査を行いました。
今どきは、就農といっても経営をいちから勉強する初心者というよりは、起業経験者が多く、クラウドファンディングなどで資金を集めて農業を始めるケースも多くなっています。また、農業をすることが目的ではなく、はじめから加工して売り出す商品を決めていて、販路まで考え抜いて参入する人もいて、通常の農家さんからみると、かなり自由な思考で農業を考える人たちです。そのような人たちが入ってくることで地元にも刺激を与えてくれます。
また移住者が土地を借りるにも買うにも、地元の一員となって人々とつながり、そのつながりの中でビジネスを展開していかなければなりません。こうして志をもって何かを始めた人たちが、地域に定着し、課題解決を担っていくまでのプロセス全体を見ることが、世の中と社会の現実を見る目「社会学的視点」を養うことになると考えています。「経済社会学」の視点でいえば、そのコミュニティの人間関係が、その経済活動のパフォーマンスに、どのように影響するのかを見ます。そして何より重視したいのは「みんなが幸せになる解決策は何か」を模索することです。
「サスティナビリティ」が環境政策のキーワードになって長い年月が経ちますが、この考え方が理想とする環境と経済の両立は、先ほどから述べているように容易ではありません。かといって地球環境の危機が年々切迫する中で、そこに生じる課題の解決は急務となっている現実があります。しかしこの問題の解決が難しいのは、さまざまな社会問題と結びついて生じることです。例えば今日の日本では、田畑や森林をはじめ、放棄された自然が広がりつつあります。そしてそうした問題には、地方の過疎化や高齢化などがかかわっています。現代の環境問題は、そうした社会課題の解決と合わせて考えていかなければなりません。
このゼミでは、サスティナブルな社会を築くプロジェクトを担う人々による課題解決を探る「アクション」に関心を寄せて、研究を進めます。アクションとは、社会の中に人や商品、市場の新たな動きを作り出すことです。具体的には、移住や起業、経営の継承などをきっかけに、地域の文化や暮らしを受け継ぎながら、農産物やエネルギー、歴史的な建築物をはじめ、これまでにない地域資源の活用やサプライチェーンを作り出す動きを指します。
実際には地域に入り込んでビジネスを立ち上げ、軌道にのせることはかなりの試行錯誤が必要です。それを現場目線で学生に知ってもらうことを目的に、尾道市とその周辺の島々で果物の生産を手がける農家さんなど、今年は7軒ほどにご協力をいただき、実際に畑でインタビューを行うなど調査を行いました。
今どきは、就農といっても経営をいちから勉強する初心者というよりは、起業経験者が多く、クラウドファンディングなどで資金を集めて農業を始めるケースも多くなっています。また、農業をすることが目的ではなく、はじめから加工して売り出す商品を決めていて、販路まで考え抜いて参入する人もいて、通常の農家さんからみると、かなり自由な思考で農業を考える人たちです。そのような人たちが入ってくることで地元にも刺激を与えてくれます。
また移住者が土地を借りるにも買うにも、地元の一員となって人々とつながり、そのつながりの中でビジネスを展開していかなければなりません。こうして志をもって何かを始めた人たちが、地域に定着し、課題解決を担っていくまでのプロセス全体を見ることが、世の中と社会の現実を見る目「社会学的視点」を養うことになると考えています。「経済社会学」の視点でいえば、そのコミュニティの人間関係が、その経済活動のパフォーマンスに、どのように影響するのかを見ます。そして何より重視したいのは「みんなが幸せになる解決策は何か」を模索することです。
回り道をして考えて、その先の新たな世界へ
卒業論文は「経済」「環境」「地域」を軸に、学生の皆さんそれぞれが個性的なテーマでとり組んでいます。今年の例でいえば、地方鉄道の存続について、頻繁に災害が起きる河川とともに暮らす人々、離島のゴミ問題や、シェアリングエコノミーの観点から見た空き家問題など多彩です。卒論の指導を行うにあたり、最近は新しいテーマが多いので、どのような内容でも打ち返せるようにこちらも勉強が必要です。とくに立教大学社会学部の学生は、新しいものに敏感で意識が高いですね。
ただ、ひとつの問いに対してひとつの正しい答えがあるわけでもありませんし、その答えに早く辿り着いたからといって研究の質が高いというわけではありません。ですから私は、なるべく回り道をしてもらうよう、途中で細かく仕掛けを用意したりもしています。例えば、研究のプロセス全体をかなり細かく分けたうえで、小さな答えをひとつひとつ重ねて大きな結果を出していくという形で、研究全体のプロセスを体感してもらうように工夫しています。結論まで紆余曲折を経てもらう目的は「考える」時間をたくさん持ってほしいからです。
例えばインタビューの場合、先行研究や質問の順番をはじめ、綿密に準備をしたとしても、実際に行ってみたら、そう予定通りにはいかないわけです。相手から聞いたこともないような話をされて、あれこれ聞いてもわからない場合はまた文献に戻るなど、回り道をしなくてはいけません。そうしてさまざまな過程を経ながら、リアルな現実に迫ることができるはずです。
ただ、ひとつの問いに対してひとつの正しい答えがあるわけでもありませんし、その答えに早く辿り着いたからといって研究の質が高いというわけではありません。ですから私は、なるべく回り道をしてもらうよう、途中で細かく仕掛けを用意したりもしています。例えば、研究のプロセス全体をかなり細かく分けたうえで、小さな答えをひとつひとつ重ねて大きな結果を出していくという形で、研究全体のプロセスを体感してもらうように工夫しています。結論まで紆余曲折を経てもらう目的は「考える」時間をたくさん持ってほしいからです。
例えばインタビューの場合、先行研究や質問の順番をはじめ、綿密に準備をしたとしても、実際に行ってみたら、そう予定通りにはいかないわけです。相手から聞いたこともないような話をされて、あれこれ聞いてもわからない場合はまた文献に戻るなど、回り道をしなくてはいけません。そうしてさまざまな過程を経ながら、リアルな現実に迫ることができるはずです。
本物の学びがある「本当の大学」
立教大学社会学部は、3つの学科それぞれ熱心な先生ばかりで、専門的知識にしても成し遂げてきたことをみても、一流の方々ばかりです。研究のテーマやフィールドにも流行りすたりがあるのですが、ここは誰もやっていなかった最新の研究フィールドを開拓してきた先生が多く、そこが立教大学社会学部のおもしろいところです。
社会学はよく「幅広くどのようなことでも学べる」と言われますが、ここは「社会学の奥の奥まで学べる」学部だと思っています。例えば「働き方」というひとつのトピックに関して言えば、仕事の現場のことだけでなく社会階層やジェンダー、ライフスタイルまで多彩な角度から考えることができます。
立教大学は奥の奥まで学ぶことができる表舞台。本物の学びがある、という点でまさに「本当の大学」がここにあります。社会というしがらみの中ではなく、自由な立場で「考える」ことができるこの4年間はかけがえのない貴重な時間です。さまざまな人と出会い、楽しみながら「考える」営みをぜひじっくりと味わってください。
社会学はよく「幅広くどのようなことでも学べる」と言われますが、ここは「社会学の奥の奥まで学べる」学部だと思っています。例えば「働き方」というひとつのトピックに関して言えば、仕事の現場のことだけでなく社会階層やジェンダー、ライフスタイルまで多彩な角度から考えることができます。
立教大学は奥の奥まで学ぶことができる表舞台。本物の学びがある、という点でまさに「本当の大学」がここにあります。社会というしがらみの中ではなく、自由な立場で「考える」ことができるこの4年間はかけがえのない貴重な時間です。さまざまな人と出会い、楽しみながら「考える」営みをぜひじっくりと味わってください。