社会学部メディア社会学科の是永論教授にインタビュー

2024/04/19

教員

OVERVIEW

社会学部メディア社会学科の是永論教授に、担当教科やゼミについて語っていただきました。

人と出会い他者からヒントを得て考える。急がず余裕を持って、意義のある4年間を

日常的な文化や衣食住で構成される「社会」とメディアとの結びつき

私が担当する「メディア・テクノロジー・社会」は、最近新たに展開している講義です。これまでは、マスメディアからデジタルメディア、人工知能に至るまでのメディア・テクノロジーが、どのように社会に広まっていったのかを見てきました。しかし、それだけではなく、それが日常的な衣食住で構成される「社会」と、どのようにして結びついているのか、メディアの利用や普及を捉え直すという試みです。

それを見るために、まずはインターネット以前の歴史を遡る作業も行います。「テクノロジー」という単語を「機械技術」的な意味合いで捉えると、19世紀から20世紀までの間にはさまざまな革命的な技術の導入がありました。いちばん最初に日本の家庭に入ったテクノロジーは、足踏みミシンです。明治から少しずつ普及し始め、昭和初期には日本中どこの家庭でも目にするようになり、洋服を手作りする人や洋裁を仕事にしたい人が増加しました。

「どのように広まったのか」を見るときにはモビリティー、つまり「移動」や「空間」のキーワードも欠かせません。鉄道の普及は、物流の面で革新をもたらしましたが、メディアとの結びつきの点で興味深いものがあります。それは人々が列車に乗ることで、車窓から流れる景色を眺める、という新たな視覚体験がもたらされたことです。この体験は、映画を観ることへの関心にも関連しています。

食でいえば日本における「ラーメン」です。戦後、アメリカが兵士の食料のために使っていた小麦粉が余ってしまい、それを日本で消費しようとして普及したのが「メリケン粉」です。メリケン粉は、戦後の食生活を形作っていきました。ラーメンはもともと、工場で働く労働者が簡便に食べられるものとして広がりましたが、やがて一般の人々の間にも広がり、インスタントラーメンが開発されると、それ自体がメディアとなって爆発的に広まることになります。

ラーメンは自動車の発達にも関連しています。幹線道路沿いにラーメン屋が軒を連ねる現象が起きたり、ご当地ラーメンがあらわれ、ラーメンを扱うアニメや映画があらわれ、SNSにより海外にも広がり、今や外国人観光客もラーメン屋の行列に並びます。

このように、メディアの日常的な利用状況(情報行動)のほかに、さまざまなメディアが結びつくネットワーク的な展開、移動をする手段や空間がメディアとしての機能を果たす点など多角的な視点から捉え直す、ということを講義では行っています。

SNSで人が何をしているのかを分析する。ゼミのテーマは「趣味」

メディアの変遷について知ることに意義はあります。インターネットでつながりやすくなったので、社会や人々の意識が変化した、という大雑把な動きについては言えても、これだけ普及してしまうと「結局、SNSを使って具体的に人々は何をしているの?」ということが見えにくくなってしまいました。

そのようなことから、ゼミについてはテーマを「趣味的な文化活動について」としています。社会の孤立化が進み、コミュニティや人間関係が希薄になり、人と関係を結びにくくなっているところにデジタル化、リモート化がさらに進み、ますます周囲の人が何をやっているのかがわからなくなっています。

「趣味縁」という言葉があるように、趣味がもたらすつながりがいろいろな可能性を持っているのではないか。趣味を研究すること自体が、自分の生活や今後の人生を考えていくうえでも、価値を見いだせる分野ではないかと考えたわけです。学生の皆さんが持っている趣味からメディアとの結びつきや、趣味の可能性を考えてもらう内容のゼミを行っています。

最近の言葉に「シリアスレジャー」がありますが、趣味は単に暇な時間に行う余暇活動であるばかりではなく「趣味でキャリアを築く」「趣味を仕事に」という時代になりました。一定の知識や技術を要する、スポーツや工芸・芸能などの趣味的な文化活動について、メディアとコミュニケーションの観点から考えることを目的としています。

充実した学習環境・設備を駆使して質の高い研究を

ゼミの基本は、自分自身が発言することです。そのため授業を始める前に、毎回一人が自由な内容でスピーチを行うことにしています。そこで皆さんがそれぞれの生活の場で、非常にいろいろな体験をしていることがわかり、一緒に研究をしているだけでは分からない面をお互いに確認することもできます。そこで趣味について語ってもらうことは、その人なりの考え方や感じ方を知る意味でも有効です。

講義では資料をデジタル化し、いろいろな映像なども見ながら話を進めることが多いのですが、立教大学では技術的な設備やサポートが大変充実しており、データの共有や提示がイメージ通りに行えることに大きな利点を感じています。また、図書館資料やデータベースも整備されているので、調べ物を中心とした学習環境も非常に快適です。

あいにくとコロナ禍が続いてしまい、実際の調査やインタビューが難しい研究状況の中でも、工夫を凝らした卒論がありました。それは、手芸の趣味をテーマにしたものでした。手芸作品を販売している人をシリーズで取材しているサイトを分析して、インタビューした場合に近い情報を引き出し、どのような共通性があるかなどをまとめたものがあり、大変優れた成果をあげることができていました。こうした方法を2次的なデータによる分析といいますが、近年はデータの蓄積もいろいろな形で見られるので、そうした活用をゼミでも考えていきたいと思っています。

データをツールとして使い自分の考えを導き出す

このようにゼミでは、社会調査で得られたデータベースを操作し、変数を組み合わせることで、独自に傾向を出すなど工夫をしながら、データから自分の考えたいことをどのように導き出していけばよいのか。つまり、さまざまなデータがあり、さまざまな使い方ができることを中心に学んでいます。

近年の急速なデジタル化の動きで、情報の効率性などに目を奪われがちですが、まったくわからないことに対して「これは何だろう?」という疑問からはじまり、4年間をかけて能動的に物事に取り組んでいくのが大学生活です。ですから、大学では「非効率」が普通です。

また大学は「人」に会う場所でもあります。大学で友人を見つけることなどもありますが、自分の学びたいことを実際に他の人がどのように行っているのか、どのような人から学ぶのか、というイメージを積極的に持つことも大切ですね。

そのためには、ある程度ゆったりとする「余裕」が必要です。私も教員職、部活の顧問などで忙しい生活ですが、趣味を持って余裕を楽しむようにしています。趣味はかぎ針で編む編み物と、スケート。仕事柄座る時間が多いので、腰に負担がかかるのですが、スケートは腰に負担をかけずに筋肉を鍛えられる素晴らしいスポーツですなんですよ(笑)。

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