現代文化学科、木村 自准教授に聞く、10の質問
2019/05/01
教員
Q.1 今までの経歴を教えてください。
私の専門は文化人類学なのですが、そのルーツは、小学生の頃に行った大阪の国立民族学博物館にあります。そこには、文化人類学に関する世界中のさまざまな物が展示されており、子供心にとても感動したことを覚えています。その思いが、自分のなかにずっと残っていたため、大学は大阪外国語大学の中国語学科に入り、中国の文化や社会について学びました。その後、大阪大学の人間科学研究科というところで本格的に文化人類学を勉強し、卒業した後に、国立民族学博物館での勤務などを経て、2017年から立教大学に勤めています。
Q.2 学生時代はどんな学生でしたか?
大学生の頃は、休みごとに旅行に行っていました。当時は専門が中国語だったので、中国には何度も行きました。一番印象に残っているのは、モンゴルを友人と一緒に自転車で縦断したことですね。
Q.3 専門の研究領域について教えてください。
私が専門にしている文化人類学は、社会学と似ているようで、異なる部分があります。社会学が近代西洋を調査する学問として始まったのに対して、文化人類学は、その近代西洋が植民地としていた地域の異文化を理解するための学問として成立してきたという経緯があります。ですから、文化人類学では異文化を理解するために、その文化の中にどっぷりと浸かって、そこで生きる人々の視線から生活の全体を見る必要があるんです。私の場合も、長期のフィールドワークということで、台湾に二年間ほど滞在し現地調査をしました。
Q.4 担当している授業の内容について教えてください。
「文化の社会理論」という授業を担当しています。この授業では、文化人類学の基礎を学ぶことを主眼に、映像や写真などを使いながら、異文化と日本の文化を対比して見せていきます。例えば、包丁を使ったリンゴの皮剥き一つをとっても、日本では手前に剥いていくのに対して、台湾では向こう側に押して剥いていくという違いがある。世界を広く見たときに、自分の当たり前が、実は当たり前ではないと理解することで、いろいろな可能性があり得るということを知ってもらいたいたいと考えています。
Q.5 担当しているゼミの内容について教えてください。
文化人類学のゼミなので、やはりフィールドワークは重視しています。ただ、まず前期は文献を読んで、社会学も含めた理論的な話を勉強し、それを通したディスカッションによって、異文化を理解するための視点を養います。その後、ゼミ調査合宿という形で、学生に自分でフィールドワークをしてもらうという形をとっています。去年の合宿では、沖縄の宮古島に行って、農家の方の家に泊めていただいたりしながら、ゼミ生それぞれがトピックを見つけて、現地での聞き取り調査を行いました。
Q.6 ゼミを通じて特に学生に伝えたいことは何ですか?
他者に対する想像力を養ってほしいということです。文化が違う、社会が違う、価値観が違う。そこまでは誰でも理解できるのですが、そこで思考が終わってしまう。そうではなく、違いを知ったうえで、じゃあどのようにつながっていくのかということを、もう一歩踏み込んで考えてみてもらいたいですね。
Q.7 社会学の魅力は何ですか?
自分がどんどん小さくなっていくような感覚を味わえることですね。現在の世の中は「強くなければいけない」というようなマッチョな世界になりつつあると思うのですが、そういった中で、実は自分というのはとてもちっぽけな存在なんだと感じることが、自分自身の新しい可能性につながったりするんです。そして実は、そのちっぽけな私というのは、マッチョな私よりも身軽で意外と強いような気がしますね。
Q.8 どのような学生が社会学部により合っていると思いますか?
基本的にはどのような学生にも合うとは思います。ただ、社会の現象をすべて数値化して考えたいというような人は、社会学部ではないほうが良いかもしれません。でも、いろいろな人がいた方が面白いですし、どんな人であっても社会学の考え方を伝えてガイドしていくのが私たちの役目ですからね。
Q.9 学生におすすめしたい本を教えてください。
沢木耕太郎の『一瞬の夏』という本をおすすめしたいと思います。カシアス内藤というボクサーを追ったノンフィクション作品なんですけど、取材を通して、沢木耕太郎自身が変わっていって、カシアス内藤も変わっていく。他者を理解するということの本質が、この本には詰まっているように思います。
Q.10 最後に高校生へのメッセージをお願いします。
高校生の頃から、他者への想像力というものを育んでいってもらいたいと思います。そのために良いのが小説を読むこと。小説を通して、他者の人生を追想することで磨かれる感性があります。だから、どんどんたくさんの小説を手に取って読んでみてください。