社会学部現代文化学科の関 礼子教授にインタビュー

2022/05/02

教員

OVERVIEW

社会学部現代文化学科の関 礼子教授に、担当教科やゼミについて語っていただきました。

人は「どう生きるのか」を見つめ 生活を見つめるのが環境社会論

日本の環境保全活動は 自分の居場所を大切することでもあった

講義では「環境社会論」、ゼミでは「環境問題と地域づくり」「いのちと環境」をテーマにし、環境社会学の考え方を学びます。環境の問題とは社会の問題です。地球温暖化、二酸化炭素の排出、ゴミ問題、SDGsなどのキーワードだけが環境問題ではありません。そもそも「私たちがどう生きていくのか」を考えることが、環境を考えることなのです。

講義では、環境問題のこれまでの歴史を、公害、自然保護、ごみ問題、観光地化、地域づくりなど代表的なテーマを事例に考察し、過去の問題と思われている事象と同じ問題構造が、現在も形を変えてくり返されていることを学びます。ゼミでは、フィールドを理論にあてはめるのではなく、フィールドから理論を立ち上げる方法を重視しています。

開発行為で自然や環境が破壊されようとする場合、そこに住む住民が「ここだけは残さなくては!」と声をあげた自然保護運動がありました。住民の生命・健康に被害がおよぶ可能性があるとなれば、生活環境を守るための運動が展開されてきました。こうして人々が生きる現場から環境問題が立ち上がってきます。自分の居場所を大切にしながら生きる、そこに「環境」もひとつの重要な要素として存在します。視点をローカルに下げ、足もとから考えることが環境社会学の醍醐味です。

現在の環境に対する考え方は2極化しがちです。ひとつは、最新の科学技術が何でも解決してくれるという近代技術主義。もうひとつは、自然は大切だから人間の活動は最小限にしなければならないとする自然環境主義です。そうではなく、市民が本来持っている環境倫理から思考をスタートさせるのが生活環境主義です。環境問題は不確実であり、被害があるのか、ないのかもわかりづらい場合も多く、企業や国が求める方向に技術や政策が誘導されがちですが、生活環境を守ろうとするローカルな感覚を軸に、社会が技術や政策を方向付けることが、これまでも、これからも重要になってくると考えています。

公害問題や過疎地の現場に出向き 土地や人、風土に出会う

『書を捨てよ町に出よう』は、本に浸って現実の世界を見ない人々に向けた寺山修司の名言です。それをもじっていえば、現代文化学科は『書を抱きしめて町に出よう』がコンセプトです。私のゼミでは本や論文を読み、議論し、理解したうえで積極的にフィールドに出向き、まだ明らかになっていない問いを見つけて課題にする、素朴な現場主義を貫いています。コロナ禍において、最近ではフィールドに直接出向くのがままなりませんが、工夫をこらして、現場が文字の知識を超えて圧倒的な知の力を身につけさせる醍醐味を、ぜひ感じてほしいと思っています。

3年次の調査ゼミでは、これまで、新潟水俣病が発生した阿賀野川流域、熊本水俣病の水俣市、尾瀬の入口にある福島県・檜枝岐村など、比較的遠方に出向いて公害、地域再生、エコツーリズム、地域の暮らしを学んできました。阿賀野川流域での活動では、公害被害者である語り部の方々の話しをまとめた本が、関礼子ゼミナール編『阿賀の記憶、阿賀からの語り』(新泉社)として書籍化されました。熊本水俣市では人と人、自然と人との関係がいったん壊れてしまった水俣で、対話を通してそれらをとり戻そうとするとり組み「もやい直し」の活動にふれて、自らも地域おこしにとり組む人生を選びとった学生がいました。新潟水俣病も水俣病も、被害者たち自身が声を上げ、世の中を動かし、公害のない社会への道を切り開いてきた歴史があります。水俣病や新潟水俣病の被害をふまえて、環境再生にとり組んでいる現在があります。しかしどちらも裁判が続いており、終わらない被害をめぐって今も問題が続いています。

福島県の檜枝岐村では、現地の文化や地域の暮らしを調査しました。人口550人あまりの山に囲まれた小さな村には、豊かな生活、豊かな人間関係が存在します。同じ日本の中に、都会とは違う世界や環境があることにふれて、学生たちはさまざまな化学反応を示してくれます。調査を自分のものにして卒論につなげた学生、就職の面接で、ひたすら檜枝岐村での体験を語って内定をとったという学生もいました。村に住む人数は多くはないですが、そこには檜枝岐ならではの知の体系があります。檜枝岐の土地に出会い、人や風土に出会う。漠としたイメージではなく微に入り細に入り、息遣いが聞こえるくらい人々の生活や文化、歴史や民俗に分け入って、環境=社会をとらえる。「住民の生活感覚」をテーマにしたゼミのフィールドワークから、社会に発信できる研究成果が生まれる可能性がまだまだあると考えています。

フィールドワークは最高に楽しい学び

学生が4年次にとり組む卒論のテーマはさまざまです。都会にいるカラスはハシボソガラスかハシブトガラスかという話から、東京都のごみ収集場を荒らすカラス対策へと展開させていった論文、九州の産炭地の歴史を今に伝える活動を調査した論文。都市再開発やコンテンツ・ツーリズム、都市農業をテーマにしたものなど、毎年、力作がそろいます。吸収した知識をもとにアイディアを立体化し、卒論に真剣にとり組む学生たちは生き生きとしています。社会は目まぐるしく変化し、その時々の出来事が急速に過去になっていく時代です。世代が違えば、当たり前と思っていることが、実はまったくそうではなくなっているということを、学生を通して気づかされ、はっとすることもありますね。

立教大学社会学部は、社会学を深く広く学べる大学です。さまざまな専門分野の教員がそろい、私のように国内を中心としたフィールド系のほか、海外での調査研究を主にしている先生もいらして、グローバルな視点も養うことができます。質的・量的調査の両方を学ぶことができ、フィールドを歩き回る先生からビッグデータを扱う先生まで、多様な調査研究が展開されています。社会学の間口は広く、ひとつの学問体系に収まらないのが魅力です。例えば環境分野であれば法学や経済学などに留まらず、文理融合で知見を広げることができます。

そのような社会学の中で、現代文化学科が持つ強みは、フィールドワークを重視した学びです。フィールドワークは、歩いて、見て、聞いて、自分の五感で物事を考える楽しさがあります。話しを聞きたい人にアポイントをとり、きちんと調査をして納得いく結果を導き出せたとき、最高の喜びを味わえます。自分が「知った」という実感や、腑に落ちる瞬間、自分なりの答えを得る醍醐味は大学生としてぜひ、体験してほしいことです。スマホやパソコンを使えば何でも調べられる時代ですが、ものの考え方だけは「検索」できないのです。調査の結果、予想や言われていたことと違ったなどの意外性も含めて、社会の多様性を実感しながら「環境と生きる」について自分なりの発見をしていただきたいですね。

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