社会学部社会学科4年の深町泰士さんにインタビュー

社会学科 深町泰士

2023/05/21

在学生

OVERVIEW

社会学部社会学科4年の深町泰士さんに、立教大学での学びについて語っていただきました。

大学は多様な講義がそろう学びの宝庫

社会学とは日常の行為そのものがすべて研究対象になる

高校生でまだ進路が決まらず迷っていたとき、先生が当時、立教大学社会学部に在籍していたOBについて話していたことがきっかけで興味を持ち、そこから自分で社会学部について調べました。そうすると多様な研究テーマがあり、幅広い視野を身につけることができること。そして何より社会学が、実践的な学問だということがわかったので飛び込んでみる価値があると思いました。

自分は高校時代、部員が100名以上所属する部活の部長をやっていました。部員の前で話す機会も多く、部内での意思の伝達に苦労したこともあり、コミュニケーションの構造を学んでみたい気持ちはありました。しかし大学入学当初は、社会学でそれが学べるとは思っていませんでした。しかしのちに、社会学とは日常の行為そのものがすべて研究対象になることを知り、とても新鮮に感じました。

入学後に初めて、社会学がどのような学問なのかを知る契機となったのが1年次の「社会学原論1」でした。とくに印象に残っているのが、カナダの社会学者アーヴィング・ゴフマンの「表局域」と「裏局域」という考え方です。ゴフマンは「人はみな、舞台上のパフォーマーである」ことを前提に、人々が「役割」を演じる場を「表局域」と「裏局域」とに分類していることを学びました。この考え方に触れる以前から、自分が高校時代、部長というリーダーの役割を演じているときと、部活終了後の自分の立ち居振る舞いに差異があることに違和感を持っていました。その違和感を言語化してくれたのが、このゴフマンの考え方でした。人は生活の中で舞台ごとに役割を変えて演じている。アルバイトをしているとき、家族と過ごすとき、学校で活動しているときも同じで、自分が感じていたことが「まさにこれだ!」と体感として理解できた瞬間でした。それが学問として成り立つことにとても驚いたとともに、社会学の魅力がわかり好きになったきっかけが、この「社会学原論1」でした。

この授業を通して学んだ社会学的想像力は、2~4年次までさまざまな分野の授業を受けていくなかでも、考え方の基盤になったと感じています。また、授業だけでなく、それまで無意識に行っていた日常的な行為に対しても、なぜ?どうして?という視点を持って考える習慣がついたと思います。

また1年次のときは、とにかく図書館をよく利用していました。1年次では必修授業がたくさんありましたが、ちょっとした空き時間に図書館へ行っては興味の持てそうな分野の本を探したり、ビデオコーナーで映像を見たりして過ごしました。本を読むのは得意ではなかったのですが、環境がよかったので読書が好きになりました。

当事者として社会問題をとらえる「現代文化論」

2年次で印象に残っているのは「現代文化論」です。この授業は、今まさに起きている社会問題をテーマに、「当事者」として社会問題をとらえるという点で、非常に印象深い授業でした。ちょうどこのころ、アメリカで起きた事件を機に、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える抗議活動、ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)が現在進行形でニュース上を騒がせていたころでした。この授業は毎回ブラック・ライブズ・マターをテーマに、日本国内での抗議活動の広がりや世界の状況に合わせた、ライブ感のある内容でした。人権的な切り口のほか、関連した芸術作品に触れることもあり、高い関心を持って臨むことができましたし、これが高校生とは違う大学ならではの学びだと思いました。

以前はテレビのニュースや新聞などの情報を、どこか他人事のように感じていましたが、この授業を受けたことにより、それまで単に流れていく情報だったものが、自分とどのような関わりがあるのか、社会にどのような影響を及ぼしているのかといった「当事者性」を持ってとらえることができるようになりました。気になったことは調べる習慣がついたのも、この授業の影響だと思います。

日常のあたり前の行為を問い直すエスノメソドロジー

3年次で「専門演習2」をとるにあたり「日常生活の社会学」というタイトルを見て、前田ゼミに決めました。やはり自分にとって1年次のときにゴフマンの理論に触れ、日常の自分の行為が社会学と直結していることを体感したので、このタイトルに惹かれたのだと思います。結論から言うと「前田ゼミに入ってよかった!」という感想です。

前田先生の専門は、エスノメソドロジーという分野で、これがまさに「日常生活であたり前のように行われている行為を、私たちはどのように理解しているのか」を問い直す学問です。
前期は文献を読みながら知識を深め、後期で日常にかかわるテーマを決めて卒論にとり組む流れでした。前期はゼミのメンバーと「コロナ禍の生活」というテーマでグループセッションを行いました。すでに授業のすべてがオンラインだったのでディスカッションもオンラインで行い、そこで得た録音データを実際にトランスクリプト化(筆記)して分析するといった実践的な内容で、これは卒業論文を書くうえで非常によい練習になりました。

この実践授業を行ってみて、コロナ禍で大学生活がダメになったという悲観的なことはなく、オンラインでも意見を交換し合ったり、記録スキルを高めたりすることができることを確認できました。無意識のうちに営んでいた「コロナ禍」の日々を意識的にとらえ直すと、日常生活が複雑に構成されていることを認識しました。

ライフストーリーの観点から「アニメを語る」研究に挑戦

ゼミ論文では、テーマ探しを始めるにあたり「自分の日常にかかわる興味のあることは何だろう?」と問い直しました。その時期、自宅でアニメを視聴する頻度が増えたこともあり、社会学的な観点からアニメについて分析するのはどうだろうと思いつきました。しかし、それを学問的にどのように落とし込むのかがわからず先生に相談したところ、さまざまな関連文献を紹介してくださいました。その中の1冊「アニメの社会学」という文献からヒントを得て、ライフストーリーの観点から「アニメを語る」という行為に焦点を当てることにしました。アニメの視聴と、見る人のアイデンティティ形成との関係性を研究してみようと考えました。

論文をまとめる際、私自身初めてとなるインタビュー調査も実施。アニメが好きな友人3名に依頼し、1回30分のインタビューを1名につき3度お願いしました。そこまでに至るスケジュール調整や質問の準備、実際のインタビューも慣れないため最初は苦戦しました。自分はコミュニケーションに興味があり、人と話すことが得意だと思っていました。しかし、調査インタビューとなると話は別でした。質問をこちらの意図で固め過ぎると誘導尋問になってしまいます。先生からは、質問は柔軟性を持って、方向性を定め過ぎないように、そして聞き手がしゃべり過ぎないように、インタビューとは相互行為として成り立つものだから、そこを自然な形で運ぶようにとアドバイスを受けました。そして前田先生からの手厚いサポートや、ゼミのメンバーの協力もあり、2万字におよぶゼミ論文を完成させることができました。

ゼミ論文に引き続き、同テーマで6万字の卒論を完成させる

卒論は、このゼミ論文に引き続き「アニメを語る」行為の研究を行いました。ゼミ論文のときに設定した3つの論点に「価値観形成の協働性」と「自身の経験がアニメ視聴に影響を及ぼす可能性」というふたつの新たな論点を加え、より多角的に分析を試みました。そしてゼミ論文のときに協力してもらった友人3名から再度インタビューをとり直し、追加で2名の知り合いに依頼し、合計5名から話を聞きました。

卒論作業は4年次で就活時期と重なったので、質問表の作成とエントリーシートの両方を抱えていっぱいいっぱいになりました。インタビューを依頼した人たちの空き時間と、自分の企業面接のスケジュールを合わせることも大変でした。一方で、ゼミ論文のときの経験も活かすことができ、質問表の内容を練り上げ、語り手がより話しやすい環境づくりを心がけたため、中身の濃いインタビューをとることができました。自分の傾聴力もかなり上がったと思います。

しかし、卒論はここからの道のりが長く険しいのです。春学期のうちに集めた大量のインタビューデータを文字に起こし、分析する必要がありました。毎週インタビューデータを持ってきて、ゼミのメンバーとデータセッションをすることで、自分では気づけなかった観点からの分析をとり入れることはできたものの、最初のうちは、大量の情報をどのように扱えばよいか悩みました。先生からのアドバイスやゼミのメンバーとの意見交換をくり返すうちに自分の中で段階的に考えがまとまり、最終的には6万字におよぶ論文として書き上げることができました。長い時間をかけた分、卒業論文を書ききった達成感があり、それは自信にもつながりました。

主体性を持って、自分の興味関心があるものを見つける姿勢が大切

大学入学時、コミュニケーションの構造に興味があったことから出発したことをふり返ると、4年間でさまざまなスキルを身につけることができました。実際のインタビューやディスカッション体験は実践として有効で、学問的には、自然な会話を分析し規則性を見つける会話分析を学んだことも大きかったです。

会話分析の中に、Turn-taking=順番交替という概念があります。これは会話の参加者が、どのように話し手と聞き手に分かれ、いつどのタイミングでその役割を交替しているのかを探るものです。この概念を意識することで相手の話を聞きつつ、相槌を打つタイミングや、いちばん発言したいタイミングをとらえ、そのときに適切な言葉を選んで発することの重要性を知りました。実際、この会話スキルは就活の面接などで活かすことができました。

大学は高校までと異なり、ほとんどすべてにおいて自分で考え選択する場所です。とくに立教大学社会学部は自由度が高いからこそ、主体性を持って自分の興味関心があるものを見つけていかなければなりません。逆に主体性さえあれば、立教大学は多様な講義がそろう学びの宝庫です。積極的に見て聞いて、世界を広げられた4年間の経験は、今後もきっと役立つと思います。

CATEGORY

このカテゴリの他の記事を見る

お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。