社会学部メディア社会学科4年の稲川祐真さんにインタビュー

メディア社会学科 稲川祐真

2024/04/20

在学生

OVERVIEW

社会学部メディア社会学科4年の稲川祐真さんに、立教大学での学びについて語っていただきました。

中身の濃い4年間の集大成。自分にしか書けないテーマの卒論に大満足

「社会学原論1」で学んだことを塾のアルバイトで応用

私が立教大学を選んだ理由は、キャンパスの雰囲気です。都会にありながらもキャンパスが落ち着いていて、4年間通いたいと思いました。社会学部を選んだのは、幅広い学問を履修後、自分の興味を見つけて探求できる柔軟な学部だと思ったこと。そして、日頃からニュースや新聞を通して社会問題全般に広く興味があり、メディアの特性を学びたいと思ったことから、メディア社会学科を選びました。

しかし高校時代、社会学は具体的に何を学ぶ学問なのか、はっきりとはわかりませんでした。しかし1年次で、難しいイメージを持っていた「社会学原論1」を勉強したことで、社会学を学ぶうえでの基礎を身につけることができ、社会学への理解が深まりました。

「社会学原論1」は、社会学が始まった近代ヨーロッパから現代に続くまでの、著名な社会学者の研究を紹介するものでした。フランスの社会学者エミール・デュルケーム、ドイツの社会学者マックス・ウェーバーなどの理論を学んだわけですが、私が実際に役立ったのは、フランスの哲学者ミシェル・フーコーが権力論を説明する際、モデルとして用いたことで知られる「パノプティコン」です。

パノプティコンとは「一望監視施設」と呼ばれる円形の監獄施設のことで、監獄の真ん中に看守が1人いて、その周りに個別の牢屋が続く造りです。監視する人が1人だけなのに、多数の囚人はずっと監視されている意識になり規律が保たれる、というこの現象。自分は、私塾の映像授業の講師のアルバイトをしていたのですが、ここに使えるのではないかと思いました。

この塾では複数の生徒たちと、講師は私が1人だけです。生徒の中には、なかなか授業を受けてくれない生徒もいて、どうにかできないかと考えていたとき、パノプティコンの理論を思い出しました。教室の造りは一望監視型ではありませんが、自分は1人しかいない看守と同じです。そこで私は生徒に出席を促すために「昨日は来なかったけど、何かあった?」と連絡をとるようにしました。「チェックしているからね」と暗に伝えることで、効果はありましたね。

このように、社会学がどのようなスタンスなのか、どのような変遷があるのか、昔の社会学者の理論を現代にどのように応用できるのかがわかりました。そのため現代社会を論じた他のさまざまな授業において前提となる基礎知識が身につき、3年次以降ゼミに入ったのちは、自分で応用できるようになりました。

人の意見は自分の思考を広げるための貴重な資源

入学当初から幅広くさまざまなことを学んでみようと思っていたので、2年次には、宗教の講義「現代社会の中の宗教」にチャレンジしました。キリスト教やイスラム教、仏教など、世界には古代から現代まで続く宗教が存在していますが、その宗教も教義はひとつではなくさまざまな変遷があります。宗教の変遷には当時のさまざまな社会情勢が関連してくることがおもしろい反面、非常に広い範囲を網羅しており、暗記や理解にとても苦労しました。しかし現代社会における宗教対立も、そこから読み取ることもできる点で勉強になりました。

3年次には「人権思想の根源」で、ジェンダー問題にも触れました。LGBTQと称されるジェンダーの世間一般的な捉え方ではなく、その狭間にあるグラデーションのような性への捉え方があることを知りました。日頃ニュースでジェンダー問題などを見ていると、Lの人はこういう人、Gの人はこういう人…というように安易にジャンル分けしようとします。しかし実際には性の自認はさまざまであり、ジャンルで括ることのできない人がいます。「区別」は、人を知らず知らずのうちに傷つけてしまう可能性がある。ジェンダーに限らない重要な考え方を学ぶことができました。

そして、3年次から本格的に始まるゼミの前哨戦として「基礎演習」では、文献講読やディスカッションなどを通して、他学生と意見を交わす機会が増えました。そのなかで実感したのは「人の意見は聞いたもの勝ち」です。自分の意見・考え方は大切ですが、それだけでは語り口が単調になり、狭い世界の話になってしまいがちです。他の意見をよく聞きとり入れることが、いかに自分の考え方を広げることにつながるかを、ディスカッションを通じて知ることができました。

「趣味」のテーマと出会い「サードプレイス」という概念を初めて知る

ゼミは2年の後半から選び、3年次からスタートします。私は「趣味的な文化活動について」を研究する是枝ゼミに入りました。「趣味」というワードに惹かれたからです。私は1年次のとき、自然が好きだったこともあり、流行っていたソロキャンプにはまっていました。それをきっかけにSNSを通じてキャンプコミュニティに参加することもあり、3年次には「これをがんばったら、キャンプに行こう!」と、キャンプを中心に自分の大学生活もうまく回るようになっていました。

そして、ゼミにおけるグループでの共同研究「サードプレイスと趣味コミュニティの関連について」で、私は「サードプレイス」という概念を知りました。サードプレイスとは、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグが位置づけた定義です。「家庭や職場での役割から解放され、一個人としてくつろげる第3の場」ということですが、近代以降、人々はメディアの発達や都市化の進行により孤立化が進み、家と職場の往復で1日が終わるという人も多いとされています。

そのようななかで、サードプレイスがどのように人や社会によい影響を及ぼしているのかを調査することになりました。自身が所属する趣味のコミュニティも、サードプレイスとして捉えることができるのかどうか。従来、サードプレイスと捉えられていた図書館やカフェ、居酒屋などとの社会的効果の比較検討を行いました。

趣味のキャンプと「中年の危機」をかけ合わせた独自の研究

この研究を発展させたのが、卒業論文です。タイトルは「趣味としてのキャンプコミュニティとサードプレイスのエスノグラフィ~中年の危機問題との関連の考察~」。ここで「中年の危機」という、新たなキーワードを切り口として入れました。

前年度に行ったサードプレイスの研究をもとに、趣味のキャンプコミュニティが中年の危機問題解決の一手になるのではないかと仮説を立て、検証する研究です。現代日本では「中年の危機」と呼ばれる、中年男性特有の問題が存在します。子どもも育ちあがり、ある程度のお金はある。理想としていた地位や権力などを手に入れたあと、何をしてよいかわからないという悩みが、中年に差しかかる時期にやってくるという問題です。

具体的な作業は、3つのキャンプコミュニティのイベントに参加し、フィールドノートに活動を記録。おじさん達の輪にさりげなく入っていき、そこでどのような会話がなされているのかをひたすら聞いていました。3人グループの輪に入ったとき意外だったのは、道具などキャンプ関連の会話をするのかと思いきや、離婚歴のある中年男性の再婚の相談でした。相談されたほうは「いいじゃないですか。結婚しちゃいましょうよ!」と言い、もう一人は「でも、相手が本当に結婚を望んでいるかどうかわからないし」というように、親身になって会話をしているわけです。私は調査中、こうした場面にたびたび遭遇しました。

このように、他者と新たに「ゆるい繋がり」をもたらす趣味コミュニティは、仮説通り「中年の危機」問題解決に寄与するものだとの結論を出すことができました。卒論を通して、自分の興味関心のある学問領域に、自分から能動的に調査することができた点が楽しく、何より「キャンプ」と「中年の危機」という視点で趣味について語ることは、自分自身にしかできないことだったと思います。この卒業論文は愛着があり過ぎて、6万字も書いてしまいました(笑)。

立教大学で学び、社会人になる前にさまざまな意見に触れ、幅広く知識を身につけた人間に一歩近づくことができましたし、人として厚みが増したと思います。内定した広告代理店では、私が大学4年間で学んだ幅広い教養、ゼミ活動で学びを深めたコミュニティ形成にまつわる話題など、自分のエッセンスを入れ込んだ広告に携わり、多くの人の心を動かしてみたいですね。

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